だから野球はおそろしい。そう思ってしまう瞬間がある。この試合なら阪神2点リードで迎えた7回表だった。先発ガルシアはこの回先頭の打者ソトを歩かせた。ここまで許した安打は1回、筒香嘉智に許した1本だけ。もちろん無失点だった。しかしこの四球を契機に突然、乱れ始める。連打でピンチを広げ、結局、5失点。勝利投手の権利を逃してしまった。
もったいない。そう思ったのはこのソトの打席、カウント3-1からの5球目のときだ。当たり損ねの打球が一塁ファウルゾーンにふらりと舞い上がった。これを一塁手マルテ、二塁手糸原健斗が懸命に追った。捕れるか。どうだ。最後は糸原が滑り込む形になったが捕球できなかった。ファウルとなり、フルカウント。ここからガルシアは8球を投げた揚げ句に与四球。その後、5点を失った。
「あれはね。健斗の脚力を考えてもいっぱいいっぱいのプレーでしたね。マルテも一生懸命取りに行っていたし。もちろん、こちらの立場として『仕方ない』とは言えない。捕ってほしかったですけど…」
内野守備走塁コーチの久慈照嘉は厳しい表情でそのプレーについて話した。確かに難しい当たりだった。捕っていれば称賛されるファインプレー。捕れなくても無理はない。もっと言えば捕っていてアウトにしていても、その後がどうなったかは分からない。どこまで行っても「たられば」の話ではある。
だがそのシーンを見た瞬間「これが後で影響しなかったらいいのに」と思ってしまった。それがこういう形で現実になると、なんとも言えない気分になる。
試合前まで10勝5敗。5球団で圧倒的に相性のいいDeNAを相手に延長12回引き分けの死闘。静かだった前半戦に比べ、後半はまったく違う展開になった。
本塁打やファインプレー。そういう派手な出来事は目につくが流れが変わるのはそれだけではない。試合はワンプレーのつながりだというのがよく分かるシーンだ。だからこそ、どんな場面でも気を抜けない。高い技量を誇るプロなら余計にそうだ。
糸原はこの日、2安打を放ち、懸命に戦った。12球団でもっとも失策の多いチームにあって2失策と二塁のレギュラーとして頑張っている。だからこそ、あの邪飛を好捕できていれば、と高望みしてしまった。あ-。もったいない。(敬称略)