厳戒態勢でのキャンプ。こんなコラムを書く人間にとって困るのが選手、関係者に対する取材が大きく制限されている点だ。

これまでなら練習終了後に行われる通常取材の合間をぬって選手、関係者にほんの数秒だけでもちょこっと自分が聞きたいことを聞く。そんな取材をしてきた。それも重要ではないというか“本筋”とは違うポイントが中心だったりする。

一応、通常のニュース記事とは違う視点のモノを書くよう努めている。現在の指揮官・矢野燿大にも前監督の金本知憲にも、くだらないという意味で「おもろいこと聞きますねえ~」とあきれられたこともたまにあった。

今年に限ってはそれができない。無観客でガランとしたスタンドに居座り、ひたすらグラウンドを見つめるだけ。これはなかなか困る事態だ。もちろんコロナ禍で本当に苦労されている方々にすれば、まったくもってどうでもいいこと。それでも困るのは困る。そんな風に考えながら日刊スポーツ評論家・緒方孝市と並んでグラウンドを見ていた。

すると。打撃練習が切り替わる一瞬の合間、打撃ケージからティー打撃に移るそのタイミングでヘルメットをとって手を振っている選手がいる。

梅野隆太郎だった。「誰に手を振ってるのかな?」と思ったがどうも視線がこちらに向いている。「オレたち?」とキャップを上げると「そうです」というようにうなずいて笑った。そこから注意して見ていると同じようなことを時々、知り合いの解説者、報道関係者に向けてやっている。

なるほど、と思う。もちろん選手がそんなことをやる必要はないし、実際、誰もしていない。しかし普通ならキャンプ中に顔を合わせれば握手でもして「今年もよろしく」と言うところ。それがやりにくい中で梅野は態度でそれを見せているということだ。

なによりスタンドに誰がいるかまでしっかり見えている。あらゆるところに目を配ることを要求される捕手にとっては当たり前だろうが、これは余裕というかチームの顔になっている自覚のなせる技だろう。

起用法はいろいろあっても、現状、梅野が正捕手なのは揺るがない。万が一、この秋にFAでの移籍情報でも出ればどのチームも欲しがる捕手だ。こんな存在がいる間に、やはり、優勝したい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

投内連係で笑顔を見せる阪神秋山。後方は梅野(撮影・前田充)
投内連係で笑顔を見せる阪神秋山。後方は梅野(撮影・前田充)