痛い敗戦だ。知将・野村克也の追悼試合から始まったヤクルトとの「教え子対決シリーズ」は1勝1敗1分け。五分で終わった。ヤクルトが2位ならこれでもいいけれど、現状、相手は巨人。そのライバルはエース菅野智之が3回途中4失点で降板しながら広島に逆転勝ちした。これで2ゲーム差。ヒリヒリする。

野球は「流れ」だ。勝負事は総じてそうかもしれないが、特に間合いが入る野球は顕著だ。この試合で言えば、それは8回、阪神の攻撃だったと思う。ガンケルと奥川恭伸との投げ合いはともに7回1失点。セットアッパー岩崎優が無失点に抑えた8回裏だ。8番梅野隆太郎が中前打。無死一塁。つながりを考えても絶好の勝ち越しチャンスだ。

ここで打順は8回表から左翼の守備で出ていた小野寺暖に回った。このヤクルト戦を前に小幡竜平と入れ替わる形で1軍再昇格してきたばかり。ウエスタン・リーグで打率3割7厘をマーク、同リーグの首位打者だ。6月27日中日戦(鳴尾浜)では5号2ランを放っており、意気揚々の昇格だ。

ここで今回の昇格後、初打席が巡った。若い打力にかけるか。送って1死二塁にするなら北條史也あたりに代えるか。そう思った。作戦は小野寺に犠打のサイン。なんとか転がしたが雨で湿ったグラウンドで打球の勢いを殺しすぎ、捕手に処理される併殺打。結局、得点できずにチェンジとなり、9回、スアレスが打たれた。

小野寺でバントか-。正直、思った。今季はファームでいくつ決めているのかな。1つか。小技の利くタイプに育てているわけではないだろうし、それはそうだろう。もちろん用兵、作戦は指揮官の専権事項だ。矢野燿大がそう決めたのなら仕方がない。何より2軍と1軍は試合の意味合いが違う。とはいえ。あそこで小野寺が犠打が決められるかどうか不安にならなかったのかな? ということだ。

「アンテナを常に張っておけ。何かを感じる力を養いなさい」。これは野村が阪神監督となったとき、捕手・矢野を育てるために繰り返した言葉だ。この試合の気配、流れを考えたとき「こいつ、バントできるかな?」と思わなかったのかどうかは気になる。

直接の敗因は全体的な打線の不振だろう。それでも、いや、だからこそ細かいところを大事にし、今季の残り試合をしっかり戦ってほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

2021年7月1日 送りバントに失敗し呆然とする小野寺暖(撮影・上田博志)
2021年7月1日 送りバントに失敗し呆然とする小野寺暖(撮影・上田博志)