これは大きい勝利だ。阪神が競り勝てたのは日本を代表する右腕・オリックス山本由伸が先発した試合だからこそだと思う。戦前「今の阪神打線に山本は打てない」というのは大方の予想だったろう。指揮官・矢野燿大も「そうは点が取れないので」と話していた。

はたして、そういう展開になった。走者は出すものの得点にはつながらない。おまけに阪神は1回裏、先頭打者のときにいきなり島田海吏が失策したことをキッカケに1点を献上した。

これは勝てない。誰もがそう思ったときに逆の目が出る。長い間、野球を見ていてそんな場面もよく経験した。それは8回だ。2点ビハインドの阪神、2死一塁で佐藤輝明が山本の変化球をとらえた当たりは右翼を襲った。

これに右翼・佐野皓大がダッシュで前進。好捕かと思った瞬間、ボールがそれた。結果は適時三塁打に。これで流れが変わり、2死三塁から阪神は伏見寅威の捕逸で追いついた。ここから「勝利の女神」は阪神にほほえんでいたのだ。

振り返れば、やはり佐野皓の守備がカギだろう。2点差、2死一塁という状況を考えれば前に落として単打で止めればよかった。しかし、そこはエース山本が投げている試合。守るナインにも「完封だ」という思いが無意識にもあったはず。だからこそ打球が飛んできたとき「捕ってやる」と思っても無理はない。佐野皓は責められないし、流れが阪神にあったのだ。

京セラドーム大阪は3万3323人の満員御礼で盛り上がった。この大入り、やはり阪神が理由だ。同じ関西を本拠地にするチームだが観客動員の面でオリックスと差があるのは事実。阪急時代からオリックスには「いつかは阪神で…」という選手もいた。時代が変わり、今はそんなことはないようだが例えば12日に先発する宮城大弥は率直にこんな話をしたようだ。

「(球場に来る)ほとんどの人が阪神ファンという…。ちょっと悔しい思いを持ちながら、1人でもオリックスファンに持ってこれるように頑張りたいと思います」

実力では負けていないのに人気では…。宮城が言うようにオリックスにはその悔しさがあるだろう。阪神にとって大きい勝利だ。だからこそ次も負けられない。ここは宮城を打ち、カード3連勝で交流戦ラストを飾り、Aクラス奪取のリーグ戦に戻るときだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

オリックス対阪神 オリックスに勝利した瞬間、ナインより早く飛び出す阪神佐藤輝(撮影・和賀正仁)
オリックス対阪神 オリックスに勝利した瞬間、ナインより早く飛び出す阪神佐藤輝(撮影・和賀正仁)