神戸市東灘区の老舗喫茶店「珈琲館 尾賀」。闘将・星野仙一の命日、1月4日は今年もここで迎えることができた。酒を飲まずコーヒー、紅茶を好んだ星野が行きつけにしていた店だ。

「あれから5年ですか…」。今年83歳になる店主・尾上露子は相変わらず元気な様子で迎えてくれる。この日は同店の仕事始めでもあった。人気店だけあって順番待ちをするお客もいるほど。もちろん星野との関係を知らない人も多い。

その中に昨年も、その前も顔を見たような気がする人がいた。迷ったが声を掛けてみる。「そうです。星野監督の命日なので毎年、お邪魔しています。自宅は遠いんですけど、この日だけはコーヒーを飲みに…」。そう話してくれた。

42歳の教員だという。「大ファンでした。星野監督で優勝したときは社会人1年目で」。虎党が歓喜に沸いたあのシーズンをそう振り返る。そして続けた。「あんな監督というか指導者はそうそういないですよ。時代は違うけれど、あんな人が教育界にいたらどうだったかなと思います」。

人を育てるのは難しい。学校の先生も、会社の上司も、そしてプロ野球の監督もその部分では共通することだ。時代背景はもちろん、いろいろな見方はあるだろうが、星野には確かにその「形」があったと思う。

その星野の下で03年は三塁ベースコーチを務めた岡田彰布にとって2度目の挑戦が始まる。その岡田は命日を前に虎番記者たちに「勝つ意識はすごかった。そういう意識を植え付けるというかな」と星野の思い出を語ったようだ。

「勝ちたいねん」。岡山出身で長く名古屋に暮らし、関西で生活した経験がないにもかかわらず、関西弁がうまかった星野が残した印象深いフレーズだ。当時、大阪出身の岡田は「大阪弁とはちょっと違う感じやけどな」とほほ笑んでいた。同じく大阪人のこちらも「確かに大阪の人間はそういう言い方はしないかも」と同意したものだ。

それでも虎党だけでなく、野球ファンにとって星野の笑顔をともに忘れられない言葉になった。「星野さんはまた岡田さんに期待していると思いますよ」。コーヒーのお代わりを持ってきてくれた尾上は言った。

「アレ」でも「勝ちたいねん」でもいいのだ。星野ファンも岡田ファンも、そして虎党の思いは1つだ。そろそろ勝たんかい。阪神。それしかないのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)