1回に出た佐藤輝明の適時打をどう見ただろうか。1点を先制し、なお無死満塁。ここで5番・佐藤輝が打席に入る。マウンドには制球に苦しむ先発の左腕・浜口遥大。さあ、どう出るかと思っていたら、少々、意外な光景が広がった。

初球、外角低め、ボールくさいコースに来た球にコンパクトにバットを出し、左前への適時打とした。これで2点目。4点のビッグイニングとなった1回の攻撃に貢献した。

この場面を見て瞬間的にはこう思ったのだ。流し打ちみたいな安打でなく、ガツンといってくれ-。虎党の中にそう感じた人もいたのではないか。常に長打を期待される存在。そう感じてしまうのはスターの宿命かもしれない。

だが試合を見ていた緒方孝市(日刊スポーツ評論家)の視点は違った。広島を史上初の3連覇へ導いた指揮官。その感想は「やはり佐藤輝はただものではない」というものだった。

その感想が出たのは“状況”が大きい。荒れ球が持ち味の浜口、1番、2番に連続四球。3番ノイジーは打ち取ったように見えたがポテンヒット気味に右前に落ちる適時二塁打になった。さらに現在、オープン戦不調の4番・大山悠輔にも3つ目の四球。そこで回ってきた打席だ。

「打者にすれば、当然、初球を狙う場面。それもストライクを取りに来た甘い球をフルスイングしようと思うもの。実際、佐藤輝もそうだったはず」。だが来たのは予想と違う球だ。それに反応し、左前にはじき返した。それが「ただものではない」のだ。

2月の宜野座キャンプを視察した緒方は「佐藤輝はまず打点王のタイトルを」と強調していた。「本塁打が出ればいいけど、まず、あそこは得点して相手を追い込み、流れをつくる場面」。丸佳浩、鈴木誠也らを率いて3連覇した経験から、チームが勝つためにそれがもっとも重要だと知っているからだ。

「WBCの大谷翔平だって本塁打だけじゃない。タイムリーで貢献している。あれが勝つための姿。大事なところで適時打を放って、状況が許せば本塁打を狙えばいいんです」。緒方はそうも説明した。

勝利のために適時打を放ち、その勢いで自分が本塁打する。佐藤輝がそんな流れに乗れれば「アレ」の実現も近づくし、近未来の猛虎打線は安泰だ、と期待できるのかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)