勝負の分岐点はやはり5回、伊藤将司のバント処理ミスか。同点で迎えたこの回、1点を勝ち越され、なお1死一塁。ここで打順は9番・東晃平に回った。シーズン中はまず打席に立たないパ・リーグの投手。当然、犠打で来るはず。

はたして東はバント。これが微妙な強さで一塁寄り投手前に転がる。シーズン中の守備率10割を誇る伊藤将は猛ダッシュ。「併殺にしてやろう」という意思が見て取れた。素早く捕球し、二塁へ。しかしこれがショートバウンドになってしまう。

遊撃・木浪聖也が捕れず、投手失策。1死一、二塁とピンチが広がった。だが中川圭太は二飛で2死。しかし宗佑磨に右中間を破られる2点適時打を浴びてしまう。これで勝負の流れは一気にオリックスに傾いたのである。

「そうやなあ。1つ、アウトにしといたらのう。ゲッツー取れるとおもたんやろなあ。1点やったら、全然、平気やったけどな。球がポーンと跳ねたよな。ちゃんとバントしてくれたら一塁アウトでもよかったんよ。そこは紙一重よ」

指揮官・岡田彰布もじっくり振り返った。もちろん勝負に「たられば」はない。だが岡田の言う通り、2死一塁にしていれば中川圭でチェンジ。宗にはまわっていなかった。

思い出すのは球界のレジェンド・山田久志(日刊スポーツ評論家)から聞いた言葉だ。「仰木さんは『バントはさせたらエエぞ』と言っていたな。アウトをくれるんだからと言って」。

メディアの言う「岡田マジック」「ナカジマジック」は95、96年とオリックスを連覇に導いた名将・仰木彬の「仰木マジック」をなぞらえたものだろう。ときに奇策を用いた仰木の口から出たバントに関する言葉を当時、投手コーチとして連覇に尽力した山田は意外な思いで聞いたという。

そうは言っても岡田の言う通り、勝負は紙一重だ。逆転できていれば、バントの話も忘れられるだろうし、ただの一場面でしかなかったかもしれない。ハッキリしているのは頂上決戦にふさわしい熱戦だったということだ。

長い間、甲子園の試合を見させてもらっているが、この大歓声は特筆すべきものだ。岡田自身もそれを感じていたのだろう。ロッカールームに消える間際、「ええゲームになってよかったよ」と言った。次は勝利がほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対オリックス 5回表オリックス1死一塁、東の送りバントを伊藤将が二塁へ悪送球(撮影・前岡正明)
阪神対オリックス 5回表オリックス1死一塁、東の送りバントを伊藤将が二塁へ悪送球(撮影・前岡正明)
阪神対オリックス 5回表オリックス1死一塁、東の投前犠打を捕球した伊藤将が二塁へ悪送球。遊撃手木浪(左)が捕球できず(撮影・藤尾明華)
阪神対オリックス 5回表オリックス1死一塁、東の投前犠打を捕球した伊藤将が二塁へ悪送球。遊撃手木浪(左)が捕球できず(撮影・藤尾明華)