現役時代から知るOB赤星憲広から最近、面白い話を聞いた。日本一を飾った阪神の盗塁に関することだ。矢野燿大が率いた昨年までと今季、大きく変わったのは「盗塁」だったのは虎党なら知るところだろう。

昨年までは「グリーンライト」、つまり「行けたら行け」という考えで各選手が一塁コーチ・筒井壮とも相談し、盗塁を狙った。だが今季は「ベンチのサインで走る」という方針に変わった。指揮官・岡田彰布の考えである。実を言えば、ある段階から選手によってはグリーンライトも“解禁”されていたようだが基本方針はそうだった。

そこで何が起こったか。すぐに分かるのは盗塁数の減少である。昨季が110、21年が114だった盗塁数は今季「79」に。これでもリーグトップなのだが犠打やヒットエンドランなど多彩な攻撃パターンで攻めた岡田野球の結果だろう。

サインでの盗塁が徹底されて盗塁数そのものが減るのは分かる。しかし赤星が“問題視”したのは成功率だ。「成功率が落ちてるでしょ。特に中野(拓夢)はハッキリしている」。

記録部に確認し、昨季と今季のチーム盗塁成功率を以下のように示してみる。

23年 7割3分1厘(108回で79回成功)

22年 7割5分9厘(145回で110回成功)

そして中野のそれはこうだ。

23年 6割2分5厘(32回で20回成功)

22年 7割6分7厘(30回で23回成功)

赤星が言ったように中野の成功率が結構、下がっている。大ざっぱに言えば自分で走れば決められるが指示されたら決められない。これはどういうことか。

「選手の性格にもよるんですよ。テル(佐藤輝明)なんかサイン即走るのは得意な気がします」。笑いながらそう言った赤星に、サインで盗塁が失敗する理由は何かと聞いてみた。

「いろいろあるでしょうけど、それはやっぱり“準備”でしょう。常に初球から行くつもりなら、いつサインが出ても大丈夫なはず。そういうつもりでいろということですね」

来春、宜野座キャンプに2年連続で臨時コーチとして出向く際、そのあたりも話したいという。「指示待ち人間」はよくないが指示を実行できないのも困る。「積極性」とは何か。そんなことも考え出せば、野球の話だけではない気もして興味深いのである。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)