独断で言わせてもらって連覇へ発進する開幕投手は村上頌樹で間違いないと思う。指揮官・岡田彰布は「逆算なんかまだよ」と言ったが、逆算するのなら金曜に投げさせるだろうし、そういう意味での「まだよ」かもしれない。とにかく3・29はまず村上だろう。

この日のマウンド。いいな、と思ったのは1回である。いきなり連打をくらって無死一、三塁。長く野球を見ているファンなら分かると思うが、このケースになれば無失点で終えるのはかなり難しいことだ。

実際、3番サンタナを三ゴロ併殺に打ち取ったが三塁走者は生還。いかに村上でも無失点で終えることはできなかった。いいなと思うのはそこでの俯瞰(ふかん)したとらえ方だ。

「ああいう場面になったらなかなかゼロで逃げ切って抑えきることは難しいので。メンタルや考え方で大丈夫かなっていう確認ができたのでよかったかなと思います」

虎番記者たちの取材に対し、村上はこんな話をしていた。これは岡田の基本的な考えにも共通している。岡田がよく言うのは「勝負にあわよくば…はないんや」ということだ。この日も何が何でも無失点と頑張れば、村上なら可能だったかもしれないが、逆目に出ればサンタナに痛打されたり、村上宗隆にも続かれたかもしれない。実際、相手主砲に安打は出た。

「こうなれば1点は仕方ない」と割りきり、次へつなげていったことが、昨季で大きく成長した村上の精神力を感じさせる。打線がまったく機能せず、その1点で負けてしまったのはオープン戦だけで勘弁してほしいところだが-。

ここで別のコラムで書いた話を少しだけ再録したい。12月の球団取材のゴルフコンペで会ったとき、村上はヤンキースの帽子をかぶっていた。「移籍したん?」と突っ込むと「いえいえ」。そこで「ファッションなのは分かるけど、もう日本プロ野球のMVPだし、考えた方がいいのでは」と言ったのだ。

さぞかし“うっとうしいおっさん”と思われただろうなと予想するけれど村上は「そう言えばそうですね。もうかぶりません」と即答。この2月、キャンプ休日に沖縄のゴルフ場でばったり会ったとき、その頭に大リーグの帽子は乗っていなかった。こういうところが「この若者はいい」と感じさせるし、活躍してほしいと思うのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)