社会人野球の選手と同じユニホームを着た小・中学生の選手がスタンドを緑色に染めた。天皇賜杯第76回全日本軟式野球大会が16日、府中市民球場ほかで開幕。初出場の東京ヴェルディ・バンバータは1回戦でパナソニック四日市に0-1で敗れたが、チームカラーで統一されたスタンドベンチ一体型の集合写真は目に新しく、希望が感じられた。

 

「悲願の1勝」を誓い、試合後に傘下の小・中学生チームの選手と集合写真を撮る東京ヴェルディ・バンバータ
「悲願の1勝」を誓い、試合後に傘下の小・中学生チームの選手と集合写真を撮る東京ヴェルディ・バンバータ

創部13年。ヴェルディの傘下になって3年。東京都のクラブチームとしては初の天皇賜杯出場だった。この快挙はもちろんだが、チーム最大の魅力はジュニア育成も行っている点だろう。同組織は2008年にチームを発足後、2017年にはジュニア(学童軟式)を立ち上げ、3年後の2020年にU-15中学野球の軟式・硬式2つのチームを併設した。中学生の成長に合わせて「W運営」でサポートするやり方は大きな話題となり、新しい育成法を示唆する存在となっている。


■子どもができた時、正しい“お父さんコーチ”になって欲しいから


10月、中学硬式チームはボーイズ東日本選抜大会で初の8強入りを果たした。2年目チームが着実に力をつけている。元バンバータ選手で、スタンドから試合を見守った小原慶治監督(43)は「キャッチボール、全力疾走、バックアップ。大人の真剣なプレーを見ることは子どもたちにとってとても勉強になります。学童、U15、社会人。“バンバータファミリー”が各カテゴリーで優勝を目指す。刺激し合う存在ですね」と話した。NTT東日本で都市対抗出場した後、コーチも務めた小原監督。「社会人に教える野球と同じことを、中学生にも教えている」と言う。小学生が大人と一緒に練習(軟式)することもあるそうだ。

「正しい野球を正しく教えたい」と言い切る。その先のプロ野球選手を目指すためか?と聞くと、首を横に振り「優秀な“お父さんコーチ”になって欲しいんです。結婚して、子どもができて、野球を教えるとき、正しい野球を教えて欲しい。それだけなんですよ」と笑った。正しい野球。そこに元駒沢大主将の矜持も感じられた。


この日、完投した榊原響(32)はJFE東日本(硬式)からの転身組。「応援してくれる家族、友人がいるから頑張れる。ジュニアの子たちの見本にならないといけない」と話す。野球人気が低下しているとはいえ、社会人の軟式野球チームは約2万5000チームあるそうだ。還暦野球チームだけでも461。小原監督は中学硬式を教えながら「長く楽しめるスポーツが野球である」と話す。「この子たちにも長く楽しんで欲しいですね。野球を通じた人との出会いは一生の財産になりますから」。長く好きでいることにも、スポーツの価値はある。【樫本ゆき】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「いま、会いにゆきます」)

同チームでジュニア育成に尽力している小原慶治監督(駒大岩見沢―駒大―NTT東日本)
同チームでジュニア育成に尽力している小原慶治監督(駒大岩見沢―駒大―NTT東日本)