稚内大谷が、2年ぶり29度目の北大会切符をつかんだ。公式戦初登板の加藤竜也(3年)が1失点完投の力投。昨年地区代表の士別翔雲に逆転勝ちした。OBの元ヤクルト宇佐美康広氏(39)から受け継いだ精神で、最北の甲子園出場を目指す。

 1年前に流した涙の分を試合にぶつけた。稚内大谷が昨年夏の代表決定戦で敗れた士別翔雲に雪辱した。公式戦初登板の先発、加藤が踏ん張った。6回に先制を許したが、9回8安打1失点に抑えた。さらに3番打者として、気を吐いた。1-1の同点で迎えた8回1死二塁。左越え適時二塁打を放ち、勝ち越し点を挙げた。本来中堅手。投手歴約半年の背番号8は「かなり緊張した。マウンドを任された自分がチームを勝たせたいという気持ちだった」と、仲間と勝利の余韻に浸った。

 あと1勝に泣いたOBの精神がチームに宿る。5月、元ヤクルトの宇佐美氏が学生野球資格回復者の認定を受け、指導のため母校を訪れた。日本最北の地からプロの世界に飛び込んだ先輩は3年時の93年夏、捕手として北大会に臨み、準優勝に終わった。旭川大高にサヨナラ負けを喫し、甲子園に届かなかった。当時の悔しさをナインに託すかのように、指導にも熱が入った。キャッチボールで出たミスを見逃さず指摘。ボール回しから意識を高めるよう、求めた。

 当時と同じポジションの捕手陣に技術面や心得を伝授した。小沢昂捕手(3年)は「送球の時のステップや相手をよく観察することなどを教わった。ありがたかった」と、感謝の気持ちを力に変えた。チームはこの日、無失策で代表切符を勝ち取った。本間敬三監督(31)は「選手たちの励みになったようで、練習の取り組み方が変わった」と、成長した姿に目頭を熱くした。

 夢舞台への挑戦権を得た。過去3度、北大会決勝の舞台でサヨナラ負け。道内10地区で唯一甲子園出場のない名寄地区で、最も聖地に近づいたが、届かなかった悲劇の歴史を持つ。上田駿主将(3年)は「先輩方の夢をかなえるチャンス。みなさんの思いを背負って1戦1戦戦っていきたい」と気を引き締める。高校野球100年の年、悲願の最北からの甲子園を実現して歴史を変える。【保坂果那】