“ありんこ軍団”八王子学園八王子が準々決勝で敗れ、2年ぶりの甲子園出場とはならなかった。初戦からランエンドヒットなど積極的に動く野球で勝ち上がったが、この日は警戒され、思うような八王子野球野球ができなかった。

 “ありんこ軍団”とは池添法生前監督時代からのチームの愛称だ。部員も少なく専用のグラウンドもなかった同校は、大会で早実などの強豪校に当たっては倒されるのをくり返した。そんな状況でも「群れになれば勝てるんだ」という意味を込めてつけられた。昔はなかった野球部専用グラウンドには、“ありんこ軍団”と書かれた横断幕や石像などが多数あり、今なおチームに浸透している。

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 「個々の能力がなくてもチームが結束すれば、強い相手も倒せる。群れで大きな相手を倒すイメージ」と安藤監督。清宮擁する早実を破り甲子園に出場した16年夏も、6試合で23盗塁。決勝の東海大菅生戦では成功率100%の5盗塁を決めるなど、チーム一丸となり機動力で巨大な敵に立ち向かった。安藤監督は「動かないと強い相手には勝てない。16年は初めから盗塁ではなく、ランエンドヒットなどを仕掛けた結果、盗塁になった。半分以上は盗塁のサインではなかった」と振り返った。

 大会前、安藤監督は「なかなか結果が出ない、突出した選手がいないという面で2年前に似ている。しかし今年はまだ機動力を武器にできていない」と不安を口にしていたが、大会を通じて不安は武器に成長した。初戦から4盗塁を決めるなど、積極的に動く野球で見る者を魅了した。

 群れで勝つという意味では、グラウンドの外でも“ありんこ軍団”だった。初戦から八王子学園八王子スタンドには、保護者、野球部、吹奏楽部、ダンス部、毎年応援に来てくれるというバスケ部含め、応援団は優に300人を超えた。準々決勝には3回戦、5回戦で敗れた佼成学園、専大附の部員の姿もあった。専大附・笹川倫太郎主将(3年)も「自分たちの分まで」と八王子学園八王子応援団に交じり、声をからして応援した。グラウンド内とスタンドが一丸となって東海大菅生に立ち向かった。

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 八王子学園八王子には野球マニュアルが存在する。安藤監督が5年ほど前に自ら作成した。「高校野球は勝ち負けだけじゃない。高校生として、スポーツマンとして、人間として、野球を通して自立させたいという思いがある。そういうことから始まり、投手編、打者編、走塁編まであり『この場面はこうする』というのをまとめたものです」。参考にするのは野村克也氏のID野球だ。「本塁打を量産できるチーム、三振を取れるチームにどこで勝負するか。頭を使うしかない。チーム力につながったらいいな」と作成した。

 このマニュアルとありんこ野球が絡み合い、ドラフト候補がいなくても、毎年夏に強いチームができあがる。「そう言ってもらえるとうれしいです」と安藤監督。八王子市民57万人の期待を背負った“大ありんこ軍団”が、来年どんな野球を見せてくれるのか楽しみだ。【久永壮真】