第91回選抜高校野球大会で、熊本西が戦力以外の要素を加味する21世紀枠で選出された。昨秋の九州大会に初出場8強入り。その後に部員が事故死する悲劇を乗り越え、センバツ初出場が決まった。選手たちは地元中学時代、16年に発生した熊本地震を体験した世代でもあり、復興への思いも胸に感謝の気持ちで戦う。熊本県勢が21世紀枠に選ばれたのは初めて。

   ◇   ◇   ◇

天国にセンバツ初勝利を届けてみせる-。熊本西の校長室に吉報が届けられると、横手文彦監督(42)は野球部関係者らと抱き合い、男泣き。部員は全校放送で知らされ、エースで主将の霜上幸太郎投手(2年)は「うれしくて跳びはねた」というほど喜んだ。センバツの目標は「先輩超えの甲子園2勝です」と言い、85年夏の甲子園1勝を上回ると誓った。横手監督は「深い悲しみと大きな希望を前にして、とまどう気持ちもありますが、輝く『公立の星』になれるよう、45人一丸となって甲子園で『西高らしく』泥臭く戦っていきます」と気持ちを引き締めた。

「45人」には天国の1人を含む。昨年10月の九州大会で8強入り。しかし、11月の練習試合で2年生外野手が後頭部に死球を受けて外傷性くも膜下出血で急逝した。選手が精神的に不安定なことから事故から1週間は活動休止。野球への恐怖心も考慮し、ボールを使った練習を再開したのは12月1日からで、フルメニューになったのは同下旬だった。いまだ実戦形式のメニューはできていない。それでも、昨夏の甲子園で準優勝した金足農も例えに、霜上は「同じ公立で自分たちもできるということを証明したい」と意気込む。

一時は21世紀枠推薦を辞退する可能性があった。だが亡くなった球児の母親から「辞退せず前を向いてください」と懇願されチームは思いとどまった。以来、練習は全員が故人に手を合わる祈りから始まる。その際、霜上は「今日も一生懸命頑張っていこう」と呼びかけているという。「笑顔が一番の特徴で、いつも笑顔をもらい守備についた。あいつの分も全力で頑張りたい」。甲子園ではチーム方針「常笑(じょうしょう)、常勝」を貫き、共に戦うつもりだ。

全員が地元中学の軟式野球部出身。16年4月に起きた最大震度7の熊本地震では、避難所生活や車中泊、引っ越しを強いられた者もいた。当時からボランティア活動を行うなど復興への思いは強く、「復興の力になればと感じている」と霜上。震災の困難や悲しみを乗り越えてきた“魂の野球”で公立旋風を巻き起こす。【菊川光一】