第91回選抜高校野球大会(3月23日開幕、甲子園)の選考委員会が25日に行われ、出場32校が決定した。

2年連続13度目の出場となる智弁和歌山の中谷仁監督(39)は「初陣優勝」を目標に掲げた。昨年8月に全国最多勝の高嶋仁監督(72、現名誉監督)からチームを引き継いだ新監督は、97年夏以来となる母校のユニホームでのベンチ入り。プロでは97年ドラフト1位の虎戦士として甲子園を本拠地にした中谷監督は「昨年取れなかった旗を取りにいく」と、主将時代の夏の大優勝旗に続く春の大旗を目指す。

初陣監督は、大志を抱く。高校2年の春、あと1勝で逃した大旗を、昨年あと1勝でつかめなかった教え子たちと取りにいく。

中谷監督 昨年取れなかった旗をしっかり取りにいくというのをチーム全体の目標として、僕も持ってやってます。

練習中のグラウンドに吉報は届いた。「甲子園というのは独特の雰囲気があって、あそこで起こる歓声は、本当に武者震いというか、プレーヤーが身震いするような、心に響くような球場。そこでまた、こういう形で戻ることができるとは」と喜びをかみしめた。

1度は切れた縁だった。高校時代から恩師の後継筆頭候補と言われ、教職を取って母校に戻る将来像を自身も描いていた。だが女手一つで育ててくれた母が病に倒れた。母と姉は「母ちゃんは最近、夜も働いてるんや」と、手術を隠した。事実を伝えられたとしても何もできない子どもの自分が、情けなかった。家族を守れる男でありたい、とプロに進路を切り替えた。

阪神で左目負傷の不運に見舞われ、選手としての実績では球団の期待に応えられなかった。だが移籍した楽天で野村克也、星野仙一、巨人原辰徳らに人間力を重用され、名将の野球を学んだ。母校の専任コーチを経て、昨夏の甲子園後に監督に着任。近畿4強で2年連続甲子園をつかんだ。

監督時代にベンチ中央で仁王立ちしていた恩師、高嶋名誉監督とは対照的に「僕は緊張しいの、マイナス思考の人間なもので。細かく細かく動き回ると思います」と中谷スタイルを貫く。名誉監督は「狙うたら、ええ。明徳義塾も大阪桐蔭もおらん」と好敵手の不在を惜しみながら、新監督の背中を押す。試合に出れば史上8、9人目となる5季連続に王手をかける黒川史陽(ふみや=2年)西川晋太郎(2年)の二遊間コンビら昨春準優勝チームから5人が残る。「どういう試合展開になったとしても、粘り強さで最後には勝つ」。中谷仁の野球で、再び聖地に臨む。【堀まどか】