西西東京の開幕カードを、千歳丘が勝利した。6回2/3までノーヒットノーランを続けていた松岡莉玖投手(3年)に代わり、あと1人の場面でマウンドに上がったのは背番号11の田中一吉投手(3年)だった。三ゴロで試合を締めくくり「良い投球だったし、松岡で締めると思ってたな」と苦笑いした。

野球が怖かった。1年生の12月、ノック中に送球が頭に当たり、頭蓋骨骨折。手術後1カ月入院したが、半年間は後遺症があった。「退院後もボールを見るだけで怖かった」。チームに戻るまでの約8カ月、仲間と家族が支えてくれた。中でも一番の支えは母の記子さん(46)だった。退院後、心揺れる息子に「まだ怖いかもね。でもケガを理由に頑張ってきた野球やめていいの? 諦めないで野球に関わったら?」と投げかけた。その1カ月後、田中は新チームの夏合宿から復帰した。「みんなが待っててくれた。もう1度、みんなと野球したくなった」。

昨夏、たまたま神宮で開幕カードを母と妹と観戦した。1年後、母は同じ場所で息子の晴れ姿を見た。「去年『神宮で投げられたらいいね』と話してたから。今日投げる息子を見てびっくり。この仲間に巡り合えて良かった」という笑顔が「一番、お母さんに感謝してる」と伝えられると一転。目が潤んだ。

2回戦は10日、小平南と対戦する。田中は「今日はみんなが立たせてくれた。次は勝ちに貢献したい」と気合を入れた。【加藤理沙】

◆田中一吉(たなか・いちよし)2002年(平14)1月13日生まれ、東京都出身。滝坂小のソフトボール部で投手、調布第四中では外野手と投手を経験。千歳丘では1年生から投手に専念した。好きなプロ野球選手は元巨人の上原浩治投手。趣味は映画観賞でお気に入りは「HiGH&LOW THE MOVIE」。家族は両親と妹。182センチ、65キロ。右投げ右打ち。