東学大国際中教校は10点差を追い付き、そして敗れた。

コールド負け寸前でも、選手たちに悲愴(ひそう)感はなかった。6回表に4点を失い、2-12と10点差をつけられた。その裏の攻撃で1点も取れなかったら、試合終了となる。ベンチ前で円陣を組むと、13人しかいない選手たちは口々に「9回までやろう!」と声を掛け合った。池田正嗣監督(50)は「僕からは、ほとんど何も言っていません。『ボールを最後まで見て振ろう。つないで、うちの野球をやろう』とだけです」。驚異の粘りが始まった。

先頭の中前打を足がかりに2死満塁。ただ、8番羽仁高滉(たから)一塁手(2年)は初球のボール球を見逃した後、2球続けて空振り。あっという間に追い込まれた。4球目も落ちる球にバットが空を切った。ところが、ワンバウンドの暴投となり、振り逃げ。三走が生還し、1点を返す。コールド負けを免れただけではない。そこから4連打を重ね、この回だけで7得点。土俵際から押し返し、3点差まで追い上げた。

7回に1点を失ったが、8回には3安打2死球で4得点。とうとう追い付いた。延長10回表、2点を勝ち越されたが、まだまだ諦めない。その裏、1点を返し、なお2死二塁と同点のチャンス。しかし、最後は菊竹勇翔外野手(2年)が三飛で敗れた。

池田監督は満足そうだった。「9回までできて、本当によかった。よく打ってくれました。うちの野球に持ち込めました」と、15安打14得点をねぎらった。コールド負けを免れたことには「子どもたちへのプレゼントだったのかな」と笑顔を見せた。

池田監督は会社員。指導は週末に限られる。平日は、選手たちが工夫して練習に取り組む。サッカー部との共有グラウンドで、監督不在の中、守備中心。週末は、池田監督の下、打力強化に取り組んだ。スペースが限られることから、安全確保のため軟式球しか打つことができない。そこで、金属ではなく、1キロ近い木製バットを使い、振る力を身につけた。さらに、5月から都内にある同じ国立高校が結集。「国立リーグ」と銘打ち、総当たりのリーグ戦を開始した。夏を前に、公式戦さながらの緊張感を味わった。

池田監督は「口角、上げていこう」と試合に送り出した。さすがに、試合後の選手たちは口角を上げられなかった。それでも、主将の宮本大輔遊撃手(3年)は「環境が十分でない中、みんな頑張ってここまで来られました。人数が足りなくて合同チームの時もあったけど、みんなで一緒にできました。今日は負けてしまいましたけど、個人的には一番良い試合だったと思います。最後まで諦めない、ということを痛感しました」と振り返った。1番でプレーし、6回には2点適時二塁打を放った。

同校は中高一貫。チームメートは、6年間をともにする気心知れた仲だ。ただ、3年生が抜けると、1、2年生は6人しか残らない。今秋からは、再び合同か他校からの派遣に頼らざるを得ない。一貫校だけに、高校1年にあたる4年生からの入学者が、そもそも少ないという事情もある。

前途容易ではないかも知れないが、この日の“激闘”は同校野球部にとって語り継がれる一戦になっただろう。最後のミーティングで、池田監督はこう締めくくった。

「君たちが40歳、50歳になっても忘れられない試合になったと思います。胸を張ってください」【古川真弥】