高校野球×ドローン!? 立花学園(神奈川)が未知の組み合わせにチャレンジしている。ドローンでの上空映像を用い、選手たちのプレーを可視化する-。通称“足柄山の金太郎軍団”が甲子園出場への最激戦区・神奈川で強い個性を出し始めた。県西部・大井町の同校グラウンドでは何が起きているのか。人気テレビ番組「ポツンと一軒家」(テレビ朝日系)を思わせる山奥へ足を踏み入れた。

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ウィーン。練習中の立花学園ナインが起動音にピクッと反応し、にやける。指導陣の操作で上空に舞い上がったドローンが、もしかすると初の甲子園へ導いてくれるかもしれない。

「ドローンで配達、というニュースを見て、野球にも応用できないかなと思ったんです」と志賀正啓監督(33)は振り返る。フリーマーケットで売れ残っていたドローンをこの秋、新戦力として迎え入れた。

タヌキやウサギが現れる山奥の私有地に、最新機器が舞う。秘密基地感たっぷりな活動の目的は「可視化」だ。投球フォームにスイングプレーン(バット軌道の回転面)、守備陣形。上空映像でナインに視認させる。「例えば、外野手に『なんで打球に真っすぐ走らないんだ』と言っても、本人は真っすぐのつもりかもしれない。上空映像なら一目瞭然です」。

感覚的になりがちな言葉を、映像や数値で具体化する。2年半の高校野球。志賀監督は「生徒たちは1日1日、引退へ向かう。課題があるなら少しでも早く気付かせてあげたい。伝わらない、をなくしたい」と最新機器導入には、時に私財も惜しまず投資してきた。

目的はもう1つある。ドローン導入で「こんな山奥に人が来るようになりました」。最寄り駅から、山道を抜けて徒歩85分。“ドローン”というフレーズに興味をそそられ取材に訪れた私も、志賀監督の作戦に引っかかった1人のようだ。

「普通の中学生だった彼らを神奈川の頂点に立たせるためには、まず心理的優位に立たせたい。常に人に見られることに慣れておく。オレたちは進んでいる、と自信をつけさせたい。大観衆が来る夏の神奈川大会では、とても大事なことだと思うんです」。

ドローン導入から日は浅く、試行錯誤の段階ではある。しかし、まだ追随者がほぼ見当たらない“ポツンと”な取り組みは、いずれ高校球界の主流になるかもしれない。同校の公式SNSのアカウント名は、ワクワク学園。山奥で日々胸を躍らせ、時代の最先端を進んでいた。【金子真仁】

○…ドローン飛行は航空法など諸法により、規則が定められる。立花学園グラウンドは国土交通省が定める「飛行禁止区域」ではなく、さらに私有地。飛行届出も申請し、認可も受けた。操作は一部指導者に限られ、操作練習も重ねている。

◆立花学園 1928年(昭3)に松田和洋裁縫学校として創立。92年に現校名に変更。金太郎伝説で有名な足柄山地も近い神奈川・松田町に校舎があり、野球部員は大井町のグラウンドへ専用バスで向かう。野球部最高成績は県8強。神奈川県では、相模川以西の高校の甲子園出場は過去に1度しかない(98年夏、平塚学園。記念大会で神奈川から2校が出場)。