甲子園初出場を目指す昌平(埼玉)ナインが、獣道での“クリスマスプレゼント”を喜んだ。

4泊5日の合宿が25日、静岡・伊豆市の伊豆志太スタジアムでスタート。かつて社会人野球シダックスがキャンプなどで使っていた人工芝の球場だ。同社でプレーしていた黒坂洋介監督(44)が17年秋に就任以降、3年連続で年末の合宿を行っている。

普段は走る量は多くないというが、この合宿は別のようだ。「きつい練習をやり抜く力をつけさせたい。テーマは『ALL OUT』。自分の力を1日だけで全て出し切ることを求めます」と黒坂監督。あえてランニング系のメニューを増やしている。

技術練習が終わると、黒坂監督は「よーし、行くぞ」と部員40人を球場裏の森へいざなった。勾配のきつい獣道だ。「150メートルを、今日は20本。ゴールまで25秒以内ね。今日は(25日の)クリスマスだし」。

部員の顔が引き締まる。シダックス時代は、主に投手陣の練習でこの獣道を使っていたという。「これは本当にきつかったね。当時は多分、制限タイムはなかったけど」とニヤリ。野村克也氏(84)もシダックス監督当時は、この急坂で選手たちをびしびし鍛えていたようだ。

1本目はまだ余裕があった選手たちの表情も、2本、3本と進むにつれ口数も減っていく。「みんなで声掛け合ってやれよ!」とゲキが飛ぶ。

合宿2日目以降は外野ポール間ダッシュを5往復、獣道ダッシュを20本。投手陣は獣道が30本で、さらに山道のロードワーク約7キロが連日待っているという。「ちょっと無謀な距離かもしれないけれど、自分なりの全力を出し切ってほしい。それが彼らの自信にもなるはずだから」。

9本目が終わり、残り11本。水分補給と小休憩を促す。「お前ら、もうすぐ折り返し地点だ。しっかり気合入れて全力で走っているだろうな?」と淡々と問うと「はい!」と応じる選手たち。

数秒の静寂の後、監督が大声を張り上げた。「よーし、ラスト行くぞ~!」。黒坂サンタの予期せぬサプライズに、森の小動物たちが驚きそうなほどの「よっしゃー!」が響く。笑顔の球児たちが次々と“ノムさん坂”を駆け上がった。【金子真仁】