樟南(鹿児島)は左腕エース西田恒河投手(3年)の力投むなしく、初戦で散った。劣勢でも背番号1らしく踏ん張る。2点差の9回2死一、二塁。長沢明日翔捕手(3年)が駆け寄った。「後悔しないよう、自信を持っている球で攻めよう。変化球に頼らず、しっかり腕を振って行こう」。直後の死球で満塁の窮地を招いたが、4番池田彪我内野手(3年)を中飛に抑え、耐えた。

打線が攻略できず、0-2で完封負け。西田は9回完投で犠飛と適時打1本の2失点にとどめたが唇をかむ。「いつも通り狙ったところに投げられなくて、相手打者が上だった」。小雨が降り、スパイクの泥を落とすなど足場も悪かった。「相手投手はしっかり投げていた。自分の力不足」。鹿児島大会の全6試合で先発。チームを引っ張る大黒柱は悔しさだけが募った。

3年間、勝つために野球に情熱を注いだ。憧れの甲子園のマウンドだ。毎回、白い投手板に文字を書き続けた。「勝」。普段からのルーティンだという。「初戦は絶対に勝たないといけない」。100キロを割るカーブやスライダーなど持ち味も発揮。8回、高速スプリットで空振り三振を奪うと笑みも出た。「スプリットで狙って三振を取れた」。磨いてきた球種だった。

バッテリーを組む長沢は「西田がいなければ、甲子園に来られなかった。甲子園でボールを受けて幸せでした」と言った。低めの球を見極め、浮いた球を強振してくる三重打線が一枚上手だった。エースは言う。「この負けを次のステージの糧にしたい」。仲間とつかんだ甲子園。全力を尽くした敗北。かけがえのない夏になった。【酒井俊作】

 

▽樟南・山之口和也監督(先発西田について)「最初から最後まで丁寧に投げた。緩急をつけてよく放った。走者を出すなかでよく辛抱して放ってくれた。(三重・上山は)思った以上に球が手元で来ていた。差し込まれて打てなかった」