高知が「ドラ1森木の置き土産」で18年以来、4年ぶり19度目のセンバツ出場が濃厚になった。2点差に迫られた8回1死満塁。3番の高橋友投手(2年)が140キロ速球を中前にはじき返し、2点を刻んだ。4番・川竹巧真外野手(2年)も右中間を破る2点適時二塁打で加勢。一挙5点を奪い、8回コールド勝ちを収めた。

大勝の立役者は主砲の高橋だ。5回にはスライダーをとらえ、右翼にソロ本塁打。「とらえた感じがあった。いい感触でした」。この日は2安打4打点。発奮材料の1つが、11日のドラフトで阪神に1位指名された先輩の森木大智投手(3年)の存在だ。前日29日にLINEが届いた。「下克上してこいよ」。胸が熱くなるフレーズだった。

高橋は言う。「(森木のメッセージは)甲子園、決めてこいよ、ということ。夏の決勝は4番を打ったのにヒット1本も打てず、3年生に迷惑を掛けた。恩返しできてよかった」。7月28日、夏の甲子園をかけた高知大会決勝で明徳義塾に惜敗。4打数無安打の高橋は負けて泣いた。ベンチで涙に暮れる森木に「お前たちが次のチームを引っ張っていけよ」と託された。

森木は3年間、甲子園と無縁だった。無念の3年生の分まで奮闘した。夏の大会に敗れて3日後、グラウンドには3年生の姿もあった。下級生に教えるためだった。今秋の公式戦期間も一緒に練習。最速154キロ右腕の森木は試合形式の登板を買って出た。後輩にとって格好の腕試しだった。

シート打撃でも、150キロを超えていたという。剛速球だけでなく、対戦相手の投手を想定した動きで投げるなど、後輩のために一肌脱いだ。浜口佳久監督(46)は「振り負けずに打っていた。スライダーも見極めていた。速い球に違和感はなく、臆することがなかった」と明かす。普段からドラフト1位右腕の球筋を見てきた。四国大会でも気後れせず、準決勝でチームは15安打11得点だ。「森木効果」だった。この日はプロの複数球団が視察。打者として評価される高橋は「森木さんはスピードも全然違う。ヒットも何本かしか打てない。打席に入るときの余裕も持てる」と感謝した。

快勝直後、浜口監督は男泣きした。「いい攻撃をしてくれた。3年生がいろいろ残してくれたものを2年生が引き継いだ。(涙は)就任4年目で教え子たちを甲子園に連れて行けなかった。3年生のことを思うのとうれしさの両方です」。甲子園に行けなかったドラフト1位右腕から後輩へ。思いを継いだ仲間が最高の形で応えた。【酒井俊作】