15年夏の甲子園出場校で昨年から不祥事が続発した大阪偕星学園がチーム再建を図っている。元阪神捕手の岩田徹氏(55)が1月に新監督に就任し、指導を開始。高校時代はPL学園(大阪)で84年春夏甲子園準優勝。私生活の規律を重んじて「気づきの野球」を推し進めた、当時の中村順司監督(75)の教えを生かし、人間教育に携わる。1学年下の清原和博氏(54)らとプレーした日々も財産だ。甲子園を目指す新天地での挑戦に迫った。【取材・構成=酒井俊作】

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近鉄の喜志駅から西の丘陵を上れば、左にPL学園の校舎が見えてくる。その先に大阪偕星学園の富田林グラウンドがある。車で1分もかからない。「こんにちは!」。野球部員は来客を見つければ足を止め、あいさつする。岩田監督は、不思議な縁を感じていた。

「PLの真横で練習するというね。ここ『羽曳野の丘』って言うんです。PLの校歌にもあります」

新天地での挑戦は難しいかじ取りになる。「責任があります」。同校は15年夏に甲子園初出場初勝利。だが、昨年は野球部に不祥事が続いた。出直しを図る学校側から新たな指導者として、白羽の矢が立った。就任初日の1月5日。多感な高校生に伝えた。

「とにかく上を向きなさい。いろんなことを言われるかも分からん。俺らも言われるかも分からん。でもお前たちには関係ない。今日から大阪偕星の野球部として、新たな歴史を作ってくれ。お前たちが常勝軍団を作って、いい伝統を作れるように俺も協力する。一緒に頑張っていこう」

生徒がスマートフォンでニュースを見て、うつむくのに気づいていた。だが、いわれなきレッテルまで背負わなくていい。心から野球に向き合えるよう、負い目を消すことから始めた。

指揮官が真っ先に伝えたのは野球の技術ではなく、整理整頓だ。「目の前のことに気づけないと。野球も同じ」。PL学園の3年間が根幹にある。「私生活と野球は直結します。私生活がだらしない子は野球がうまくても、どこかでミスをする。グラウンドが荒れていたら、自分のポジションでなくても整備できる子は大人になったとき、役に立つと思う。PLの教えで、中村監督の『球道即人道』です」。落ちている球を拾う。打撃ケージの出し入れなど、準備を全員で行う。当たり前のことだった。

「私たちのころは足を90度くらいに曲げて、トンボの先をちゃんと使ってきれいに整備していました」

甲子園7度優勝の常勝校は、グラウンド整備にも、緊張感があった。ノックのイレギュラーバウンドに空気は凍りついた。試合なら命取りになりかねない。

高校時代、中村監督に何度も言われた言葉がある。「お前、気づけよ」。投手の癖、配球の傾向…。足元の土ならしもそうだ。漫然とプレーしていては、大事なことが素通りしていく。「気づきと創意工夫。自分をしっかり見つめながら練習する。だから、気づきを、この子たちに一番伝えています」。3年だった84年は外野のレギュラーとして春夏甲子園準優勝。名門の思考はいまも息づく。

38年前の夏の甲子園。初戦で享栄(愛知)に大勝した。岩田は二塁打2本など3安打。「俺、お立ち台かなと思ったら、アイツがホームラン3本打ってね」。清原和博だった。1学年下だが一目置く存在だった。「ストイックでね。とにかく自分を追い込む。打てなかったら甲子園から帰ってきて、ずっと練習していました」。普段の練習で、打撃メニューは5本を3セット。わずか15本だけ。白球に飢え、夜10時ごろまで室内練習場で打った。自主練習がPLの強さを生んだ。

岩田監督は阪神でプレー後、中学野球の指導者として活躍し、初めて高校野球の舞台に立つ。高校生の目線に立ち、選手のLINEグループにも加わる。「野球好きな子どもたちのかたまり。甲子園に出たい大きな目標はありますが、大人になって、それぞれの『甲子園』をつかみ取れればいい」。グラウンドは人生で大切なことを学ぶ場だ。指揮官のジャンパーに新しいワッペンが映える。「OSAKA KAISEI」。甲子園を彩った伝説のユニホームと重なる。「PLっぽいでしょう」と照れた。選手と新しい1歩を踏み出した。

◆岩田徹(いわた・とおる)1967年(昭42)2月12日、和歌山県生まれ。PL学園では外野手として84年春夏の甲子園準優勝。三菱自動車水島をへて、88年ドラフト4位で阪神に入団。捕手としてプレーし、98年に現役引退。58試合に出場して打率1割7分2厘、1本塁打。少年野球「レッドスターベースボールクラブ」で監督を務めた後、履正社医療スポーツ専門学校や北大阪ボーイズで指導した。現役時代は右投げ右打ち。178センチ、79キロ。

○…大阪偕星は不祥事の続発を謝罪してきた。1月12日までに同校の野球部元監督と元コーチが観光支援事業「Go To トラベル」の給付金を詐取したとして逮捕された。翌13日に梶本秀二校長は同校ホームページで「本校としても重く責任を受け止めております。本校ならびに保護者の皆様には、多大なるご心配、ご心労をおかけしていること、心よりお詫び申し上げます」と報告した。昨秋は元コーチが強制わいせつの容疑で逮捕された。また、野球部員の窃盗を大阪府高野連などに報告し「再発防止策検討チーム」を設置。その他の被害の有無に関して調査を続けている。