夏から逆襲!! 優勝候補筆頭の大阪桐蔭が手堅い試合運びで鳴門(徳島)を下し、4年ぶりの頂点に向けて好発進した。先発の背番号「10」、川原嗣貴投手(3年)が9回1失点完投、9奪三振。決勝まで進めば8日間で5試合の過密日程で、投手起用にゆとりが出た。浦和学院(埼玉)はそつなく攻めて和歌山東に圧勝し、8強一番乗り。九州国際大付(福岡)は投打の歯車がかみ合い、広陵(広島)に快勝した。

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バックスクリーンに向かって両腕を突き上げた。これが俺だ。そう言わんばかりに川原がほえた。9回を108球1失点。「この試合は1人でいく。後の試合のことを考えず、9回は全ての力を出し切ろうと」。最後も141キロ速球で空を切らせ、仁王立ちだ。

7回に3連打で1点差に詰め寄られた。なお2死一、二塁。ピンチで動じなかった。「打線が何とかしてくれる。何も心配していない。目の前の打者を確実に打ち取ろう」。周りが見えていた。フォークで引っ掛けさせて二ゴロ。長身の188センチから投げ下ろし、この日は自己最速に1キロまで迫る144キロを計測。5回は3者連続奪三振で低めのカットボールも効いた。

悪夢を消すマウンドだ。早々に敗退した昨夏以来の甲子園。近江戦で同点の8回に登板し、3四球と乱れて決勝打を浴びた。悔し涙に暮れ、しばらく、何も手につかなかった。公衆電話で母綾子さん(45)と話した。「先輩の夏を終わらせてしまった…」。ある時、あの日の自分を見つめ直した。「どうしても抑えたい、と。気持ちが先走って体が突っ込んでストライクが入らなかった」。あの時は平常心を欠いていた。この春は違う。落ち着いて堂々と投げた。

新年の誓いがある。年末年始は大阪府内の自宅に帰省。家族とのだんらんで決意を伝えた。「悔し涙じゃなく、自分らの代は先輩の分まで頑張って、最後はうれし涙を流したい」。家の周りのランニングも欠かさない。自覚にあふれていた。

この日の朝、西谷浩一監督(52)に先発を伝えられた。「一番いい準備をできている」と指揮官。過密日程で1週間500球以内の球数制限をにらんだ用兵になる。昨秋、活躍した前田悠伍投手(2年)らを温存でき、最高のスタートだ。だが名将は言う。「次の試合のことしか考えられないのが高校野球」。あくまで一戦必勝を貫く。頂点奪取へ、本気だ。【酒井俊作】

◆川原嗣貴(かわはら・しき)2004年(平16)6月30日生まれ、大阪府吹田市出身。北摂シニアでジャイアンツカップ出場。関西選抜メンバーとして台湾遠征を経験。大阪桐蔭では2年春の府大会からベンチ入り。昨夏の甲子園で1試合に救援登板。家族は両親と弟。188センチ、85キロ。右投げ左打ち

◆西谷監督57勝目 大阪桐蔭・西谷監督は甲子園春夏通算57勝目。歴代2位の中村順司監督(PL学園=58勝)へあと1勝とした。1位は高嶋仁監督(智弁学園-智弁和歌山)の68勝。