近江が滋賀県勢初の決勝進出を決めた。山田陽翔(はると)投手(3年)が死球を左足に受け、激痛に耐えながら延長11回を170球の2失点完投。エース右腕の熱投に応え、女房役の大橋大翔捕手(3年)がサヨナラ3ランを放った。

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代替出場校の決勝進出は史上初めて。31日の決勝で滋賀県勢初の優勝を懸け、4年ぶり4度目の頂点を狙う大阪桐蔭とぶつかる。18年以来の近畿勢対決で、開始は午後0時半の予定。

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左翼席に吸い込まれた大飛球を、山田は三塁側ベンチから見た。瞬時に飛び出したナインの一番後ろから、ガッツポーズでグラウンドへ。延長11回、女房役の大橋がサヨナラ3ランで激闘を終わらせてくれた。

校歌のための整列。正面を向いたまま、隣の大橋に「ナイスバッチ」とささやいた。「ありがとう」の返答にほおが緩んだ。

1-2の5回。最悪のアクシデントに襲われた。左の足元に死球を受けた。激痛にもんどり打った。臨時代走が出され、交代やむなしの空気が流れた。

「なんで山田が…」。多賀章仁監督(62)は交代を覚悟していた。だが、黒ずみ始めていた足首に氷をあて、テーピングを固く巻き付けた背番号1は顔をゆがめながら「いかせてください」と懇願した。

足を引きずってマウンドに向かった。打席では踏み込めずに不格好にスイングし、はいつくばるように一塁まで走った。そのたび、場内からどよめきと拍手が飛び交った。

「痛みがないと言ったらうそになる。自分はエースなのでマウンドを譲るつもりはなかった。大橋を信じてミットに投げ込むだけだった。軸である自分が折れてしまえばチームもズルズルといってしまう」

主将の気迫に応え、近江は7回にスクイズで同点。どちらも譲らず、延長戦にもつれ込んだ。そして11回。「おら~!」。甲子園の銀傘に山田の雄たけびが反響する。170球目で、4番鍋倉を投ゴロに仕留め、その裏にサヨナラ決着した。多賀監督は11回まで鬼神のごとく腕を振り続けたエースの姿に「なんであんなことができるのか。感動しました」と試合中に涙を流していた。

「滋賀で日本一になりたい」と地元近江に進んだ山田。昨夏の甲子園で4強。昨秋は右肘痛で投げられず、近畿大会8強で敗退。故障しにくい投球フォームに改良し、硬い股関節のケアにも取り組み、スケールアップして聖地に戻ってきた。京都国際の辞退で得た出場権。いよいよ、目標の日本一が眼前に迫った。「あと1勝なので、チーム一丸で頑張ります」。魂を注いだ山田の甲子園がクライマックスを迎える。【柏原誠】

◆山田陽翔(やまだ・はると)2004年(平16)5月9日生まれ、滋賀・栗東市出身。治田西小1年から治田西スポーツ少年団で軟式野球を始める。栗東西中では硬式の大津瀬田ボーイズでプレー。中3時の世界少年大会で優勝。近江では1年夏からベンチ入り。甲子園は昨夏(4強)に続く出場で通算7勝目。父斉さんは東邦の捕手で92年夏の甲子園4強。兄優太さんは大阪桐蔭から日体大に進んだ。175センチ、77キロ。右投げ右打ち。