センバツの熱戦が終わった。大阪桐蔭が圧倒的な力で優勝したが、代替出場の近江も滋賀県勢では春夏初の甲子園制覇まであと1勝に迫った。日刊スポーツでは「センバツ決勝の舞台ウラ」と題して熱戦の背景を連載する。第1回は大阪桐蔭OBで元阪神投手の岩田稔氏(38=日刊スポーツ評論家)が後輩にあたる前田悠伍投手(2年)の投球をチェック。7回11奪三振2安打1失点の投球術を「ケタ外れ」と絶賛した。(聞き手=佐井陽介)

 

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センバツ決勝で強く印象に残ったワンシーンがありました。大阪桐蔭の前田投手が4回、右打者を内角低め128キロ直球で見逃し三振に仕留めた場面です。抑え気味の球速でもキレがあったのでしょう。見逃し三振を奪えるということは、相手打者に的を絞らせていない証拠でもあります。

7回を11奪三振2安打1失点という数字以上に、高校生離れした投球術に驚かされました。まだ2年生になったばかりと考えれば、ちょっとケタ外れ。プロ級と言ってもいいぐらいのレベルにありました。

右打者、左打者に関係なく、全球種を内外角に投げ分けられる。直球とカーブ、チェンジアップで腕の振りがほぼ変わらない。だから相手は球種、コースを絞れない。直球は140キロ台から120キロ台まで力の入れ具合に強弱をつけていたようにも見えました。120キロ台でも差し込んだり空振りを取れるのも、相手打者の頭に変化球への意識が残っているからでしょう。

130キロ台の直球でも空振りさせられる。プロの一流投手で例えるなら、杉内俊哉さんや内海哲也さんといったイメージです。身長180センチでこれからさらに体も強く大きくなる。まだまだ伸びしろは十分あります。順調に行けば当然、来年秋ドラフトの目玉選手の1人となるはずです。

僕が大阪桐蔭に進学したのはまだ西谷浩一監督が就任して間もなかった99年。今も大きく変わらないと思いますが、桐蔭の投手はとにかく毎日走ります。1年生の時は授業が終わると、荷物をバスに預けて生駒山のグラウンドまで走って山登り。打撃練習中は延々ポール間走、ノック中もひたすら坂道ダッシュ、最後は野手とタイム走…。あれだけ走り込むから、再現性の高いフォームの土台となる下半身を作り出せるのだと思います。

さらにいえば、主戦級となる投手たちは皆、メンタルを相当に鍛え抜かれているはずです。大阪桐蔭は全国から猛者が集まってくるチーム。競争に敗れれば1度も背番号をもらえないリスクを冒してまで勝負を懸けにきたメンバーたちの気持ちを背負うには、相当な覚悟が必要です。僕自身、新チームのエースになった直後に西谷監督から「命を懸けて投げてるか? 」と問われたことがありました。桐蔭の代表でマウンドに立つ投手にはそれぐらいの思いが必要なのです。

きっと選手たちは「自分たちは日本一厳しい練習を乗り越えてきた」という自負があるのでしょう。心身ともに鍛え抜かれた自信が根底にあるから、「お披露目会」となる甲子園でも100%を出し切れるのだと思います。次のターゲットはもちろん夏の甲子園制覇。後輩たちのさらなる進化が楽しみです。(日刊スポーツ評論家)