高校野球のドラマは、勝った者にだけ生まれているわけではない。日刊スポーツでは今夏、随時連載「君がらんまん」で、勝者だけでなく敗者にもスポットを当てた物語をお届けする。
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<高校野球神奈川大会:横須賀学院4-2旭丘>8日◇1回戦◇中栄信金スタジアム秦野
来たぞ! と思った直後、機会は失われた。「打球が良かったので、自分に回ってくると思ったのですが。ランナーが飛び出してたので、ダメかと…」。旭丘の綾部大智内野手(3年)はネクスト・バッタースボックスで握っていたバットを地面に落とし、ぼうぜんとした。2点を追う9回1死一塁、前の打席で本塁打の3番伊東が二直併殺で試合終了。4番の代打で控えていた綾部に、打席が回ることはなかった。
部員42人中、3年生は4人しかいない。全員ベンチ入りしたが、4人とも控え。スタメンは9人全て2年生だ。もちろん、悔しかった。だが、春の大会後、平野監督から「三塁コーチにチャレンジしてみないか」と言われ「折り合いが付きました」。試合には出なくても、どうすればチームが勝てるか。腕の回し方、声の出し方から研究し、代打としては、つなぐ意識を頭にたたき込んだ。
6回の攻撃を終えると「チャンスで行くぞ」と言われ、三塁コーチを離れた。イニング間に準備を兼ねて豪快な素振りを繰り返した。9回1死から同じ3年生の二宮が代打で安打。チャンスが来た-。が、願いは、あと少しでかなわなかった。「夏は初めてのベンチ入りでした。ヒットを打つ気持ちで待っていたのですが。残念です」と目を赤くして言った。公式戦通算2打数1安打。ともに代打だ。「2年生はバッティングがいい。次はベスト16を目指して欲しい」。野球は高校まで。豪快な素振りにかけた思いを、次世代に託した。【古川真弥】

