<高校野球愛知大会>◇11日◇1回戦

 愛知大会でノーシードから3年ぶりの甲子園を目指す愛工大名電が初戦を突破した。衣台を10-0(5回コールド)で圧倒。2月に交通事故で亡くなった部員の徳浪康介さんの遺影をベンチに入れ、左そでに喪章をつけて臨んだ。「康介と一緒に甲子園に行く」-。この合言葉のもと快勝発進した。

 ベンチ入りの規定は20人だが、この夏の愛工大名電は「21人」だ。三塁側ベンチのホームベース寄りに掲げられた徳浪さんの遺影。その笑顔が、仲間を見守っていた。1回先頭から5連打の猛攻など、10安打10得点。投げても3投手で完封リレー。倉野光生監督(51)は「徳浪康介が後押ししてくれている」と手向けの1勝をかみしめた。

 本来なら最上級生でエースの座を争うはずだった徳浪さんは、2月12日、早朝ランニング中に車にはねられ、翌13日に帰らぬ人となった。合宿所暮らしで家族同然のチームメートが突然、天国へ旅立った。ショックは計り知れず、しばらく練習は中止になった。

 活動再開後も心の傷は癒えず、チーム作りは進まなかった。4月の春季県大会はまさかの初戦敗退。夏のシードを逃した。ただ、いつまでも沈んではいられない。だれより率先して練習に取り組む努力家だった徳浪さんの魂を受け継ぎ「康介のために、康介と一緒に甲子園に行く」と全員が誓った。

 息子を失い、だれよりも悲しいはずの遺族は葬儀で棺に向かい「あこがれだった名電のユニホームを着てくれたことを誇りに思う」と涙ながらに語りかけた。この時、残された選手は、強豪名電の誇りと、故人のチーム愛を胸に刻んでいる。大会直前には遺族から甲子園出場への願いが込められた千羽鶴も届いた。

 プロ注目の強打者で主将の谷口雄也外野手(3年)は言う。「特別な意識をしなくても、アイツのことは頭の片隅に置いているから、気持ちは自然と伝わってくる」。ともに戦う夏は、甲子園切符をつかむまであと7試合残っている。決勝まで戦い抜き、一緒に甲子園へ乗り込む。【八反誠】