今季のメジャーで著しい成長を遂げた選手といえばブルワーズのクリスチャン・イエリチ外野手(26)だ。打率3割2分6厘で首位打者タイトルを獲得、36本塁打、110打点で3冠まであとわずかという成績を残し、今季MVPの最有力候補としてチーム地区優勝の立役者となった。昨オフにマーリンズからトレードで移籍してからここまで急激に成績を上げるとは、正直、想像していなかった。

イエリチは15年からの3年間、イチローと同僚だったため、筆者は取材で身近で見る機会が多かった。そのときの印象は誰とでも気さくに接するナイスガイで、おっとりしたいじられキャラ。一度、イエリチではないかとされる恥ずかしいプライベート画像がインターネットに流出する騒動があり、チームメートに散々からかわれていた。イエリチ自身は自分の画像ではないと否定し、クラブハウスで「それは僕じゃない」という文字が入ったTシャツを着てアピールするノリの良さで、気取らない性格だった。野球に関しては、大先輩のイチローからは何でも吸収しようという姿勢を持ち、向上心が強かったと思う。

そんなイエリチをイチローも高く買っていた。主砲のスタントン(現ヤンキース)伸び盛りのオズナ(現カージナルス)そしてイエリチの3人は「メジャー最強の外野陣」とも呼ばれた時期があり、イチローも17年のキャンプインの際には「ポテンシャルの高いチームだということはみんなが感じている。でもそっから進めていないので、そろそろ形にしなくちゃいけないときだと思いますけどね」と若い外野陣に期待をかけていた。イエリチが日系3世であることから、その年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のときには、イエリチに日本代表で出たらと、冗談交じりに話していたこともある。

しかしイエリチの17年シーズンは結局、打率、本塁打、打点のすべてで前年より成績を落としており、そこからV字回復以上の飛躍を果たしたというわけだ。

この開花の理由は、自覚の変化も影響しているかもしれない。ブルワーズでは最初からチームの核として扱われているが、マーリンズ時代はどうしても主砲スタントンの陰に隠れ、そこまで目立つことがなかった。マーリンズの本拠地は打者不利、ブルワーズの本拠地は打者天国という差はあるものの、打撃だけでなく今季は盗塁も自己最多の22個をマークしているところをみると、意識の変化があるように感じる。

ドジャースとのリーグ優勝決定シリーズ第3戦では、シフトの逆を突く三塁前への見事なセーフティーバントを決め、一塁から快足を飛ばしてホームインする好走塁も披露した。走塁はマーリンズ時代にイチローから集中的にレクチャーを受けており、それも役立っているのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)