エンゼルス大谷翔平投手(27)が原点に立ち戻り、中堅から左方向への“らしい”打撃で放った2発。メジャー5年目、進化を遂げるはずの打撃でなぜ、原点回帰が必要だったのか。背景には、過去3年間変わり続ける相手バッテリーの攻めと、それに対応してきた大谷の試行錯誤があった。

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今季の6本塁打は、最初の3本は右方向だったが、直近の3本は中堅から左方向へと変わった。昨年は46本のうち、右方向が33本で72%を占めていた。右への本塁打急増からズレ始めた、基本のセンター方向への打撃。そこに至るまでには理由があった。

大谷 一昨年、内側(内角)のデータ的な数字が悪かった。(昨年は)最初は内側が多かったので、引っ張っていたという感じ。今年に関してはそれを踏まえての(相手の)配球の中で、甘い球はセンター方向に打つ。基本的なことですけど、配球に偏りがなくなってきているので、そこがやっぱり大事かなと思います。

3年目の20年シーズンは内角攻めに苦しみ、打撃不振に陥った。実はその前年の19年に、弱点を見抜いていた捕手がいた。元同僚で現在アストロズに在籍するマルドナドだ。詳しくは語らなかったが、同捕手は大谷への攻めで「内角高めで体をのけぞらせる」と明かしていた。これに対応するように、大谷は20年シーズン中にフリー打撃で右方向への打球を増やし、引っ張る打撃に取り組んでいた。

そして昨季、打撃改善で右方向への打球は急増した。その一方で、本来の打撃であるはずの中堅から左方向は激減。内角を攻めていた相手バッテリーにも徐々に変化が出始め、シーズン終盤の9月にはマルドナドも決め球に外角高めを要求するようになった。

内角を本塁打にする意識でズレが生じた逆方向への打撃。その結果、今シーズンは内角をさばいて長打にする技術を保ちながら、本来の形である“中堅から左方向”を取り戻すための作業を重ねた。さらに進化するには、必然の原点回帰だった。【斎藤庸裕】