柳田の記録は止まっても、負けない九州魂はエンドレスだ。最後のサインに、ソフトバンク和田毅投手(35)は小さくうなずいた。140キロ直球でロッテ鈴木を詰まらせ、二ゴロで試合終了。「相手も良かったが、負けじと先に点を取られないように投げた。最後まで行きたい気持ちがあった」。被安打6でチームの完封勝利一番乗り。自身は日本復帰後の初、1673日ぶりの完封劇となった。

 最大のピンチは3回に訪れた。2死満塁で5番角中を追い込んでから、外角直球で空振り三振を奪った。長いイニングを投げるためにペース配分が頭にあったが、ここは別だった。「あの場面だけは全力で投げた。最高のボールを投げられた」。冷静な表情の陰で、期するものがあった。登板前日の19日に募金活動に参加。熊本や大分出身のファンから声をかけられた。「野球でがんばるしかない。1球1球に気持ちをこめた」と使命を悟った。気迫で危機を乗り越え、以降は危なげなくゼロを並べた。

 23歳の斐紹とバッテリーを組む。チームの課題である捕手育成も、自らの役割として向き合う。12歳下の捕手を食事に誘うなどコミュニケーションを心がけた。イニング間の反省会でも「あれはよかった」「これは危ない」と自らの考えを伝えた。この日、2人のテーマは内角攻め。「完封という結果は、投手と捕手の共同作業だし、野手も守りもある。1人でできるわけではない。今日はほとんどサインに首を振っていない。いいリードをしてくれた」。そして自身2勝目で大きな成果が出た。

 チームは昨年の最長に並ぶ8連勝。工藤監督は「見事だった。制球がいいから、追い込まれてから打つのは難しい」と最敬礼だ。ベテラン左腕が圧倒的な存在感を放ち、首位固めに入った。【田口真一郎】

 ▼ソフトバンク和田が11年9月21日オリックス戦(京セラドーム大阪)以来、5年ぶり9度目の完封勝利。QVCマリンではプロ初完封した新人時代の03年4月16日ロッテ戦以来13年ぶり2度目。屋外球場での完封も前記ロッテ戦以来2度目になる。日本プロ野球から大リーグに渡り、再び日本に戻って完封をマークしたのは村上雅則(5度)吉井理人(1度)石井一久(3度)と今月2日の巨人戦で記録した広島黒田に次いで5人目。

 ◆世代今季初完封 「松坂世代」と呼ばれるソフトバンク松坂と同学年の選手のうち、今季先発した投手は和田の他にヤクルト館山、阪神藤川、DeNA久保康がいるが、完封勝ちは和田が第1号。