34歳にして、武者修行の旅に出る。前ヤクルト田中雅彦捕手(34)は、来年2月から福井の地に足を踏み入れる。

 BC福井でバッテリーコーチに就任することが決まった。「正直なところ、考えていなかった。でも以前から指導者にはなりたいと思っていた。デスクワークとかよりも体を動かすことの方が向いているなと。嫁さんからも『やりたくないことをやるよりも、やりたいことをやって欲しい。私たちはついて行くだけ』と言ってもらえて」と決断した。

 NPBとは、全く違う舞台に飛び込む。練習環境だけでなく、給料面でも厳しい待遇。独立リーグの選手の場合、月給は15万円程度とも言われる。選手業以外に、アルバイトで生計を立てるケースも珍しくない。コーチとして入団するが、そこまで大差はないという。それでも、迷いはなかった。「僕は仕事をしに行くけど、これは勉強でもあるのでね。ぜいたくなんか言ってられないですよ。極貧生活で頑張るだけ」と家賃5万円以下の単身赴任で、経験値を積む。

 夢がある。「いつか、NPBに指導者として戻ってきたい。そのための修行だと思っている。契約がどうなるか分からないけど、いつまで福井にいるとかは決めていない。自分が一人前の指導者になれるまで、勉強していきます」と強い決意を明かした。

 野球道具以外には、釣りざおを持って行く。魚をさばけるほどの腕前も持ち合わせる。「たまには、海釣りでもしてね。魚を釣って、食料調達しますわ」と冗談っぽく笑った。家族を安心させるため-。1人の野球人として成長するため-。北陸の地で、孤独な闘いが始まる。【ヤクルト担当=栗田尚樹】