阪神伊藤隼の目は研ぎ澄まされていた。9回2死満塁で代打が告げられた。追い込まれながら、内角への速球をはじき返した。願いを乗せた打球はコツンと右翼ポールに直撃。一振りで、2試合連続のサヨナラ勝ちを決めた。前夜の鳥谷に続くヒーローは、金本監督と抱き合った。

 伊藤隼 死ぬほど緊張しました。準備はしていたけど、足が震えていました。今までに感じたことのない最高の気分でした。

 どうしても打ちたかった。この日は掛布2軍監督の退任が発表された。今年の春季キャンプは2軍スタート。危機感が募った3月、同監督とともに間合いの取り方を見直した。投手の始動に合わせて足を上げ、感覚でボールを呼び込みながら、バットを出す。シンプルな練習に必死に取り組んだ。練習後も鳴尾浜の室内で振り込む姿を、掛布2軍監督は見守ってくれた。恩返しの一打になった。

 金本監督は「一番いいところで打ってくれた。(チームの)諦めない姿勢、勝ちに向かう姿勢が出た」と褒めたたえた。チームは3連勝で3位DeNAに6・5ゲーム差。12日からの巨人3連戦へ向け、最高の勢いがついた。【山川智之】