8季ぶりに楽天へ復帰した渡辺直人内野手(37)が、いぶし銀の活躍を見せている。8日のソフトバンク戦では9回に代打で登場し、守護神サファテへ1点差に詰め寄る適時打を浴びせた。13日の西武戦では、10年9月29日以来2753日ぶりに古巣で先発。初回に菊池から先制左越え適時打を放つなど、攻守に存在感が際立っている。チームは今日17日から敵地でのソフトバンク3連戦に臨む。

 「直人おかえり~!」。ひときわ大きい歓声の先に、背番号26の姿があった。渡辺直が打席に立つと、球場のボルテージは一気に最高潮へ。4日の日本ハム戦では9回に代打で登場。古巣復帰後初安打を放つと、懐かしい大声援が心地よかった。試合後は「ホームはすごい力が湧いてくる。やっぱり、いい球場だと思った」と余韻に浸りながらも、続けて放った短い言葉の中に“職人”としての矜持(きょうじ)が凝縮されていた。

 「与えられた場所で、仕事ができた」

 プロ12年目のベテランは働き場所を問わない。ソフトバンクのサファテには代打で適時打を浴びせた。楽天で2753日ぶりのスタメンとなった西武戦では、菊池からバスターで先制二塁打を放った。開幕から15試合を消化して11試合に出場。8打数3安打2打点、打率3割7分5厘をマークし、勝負強い打撃は健在だ。内野をすべて守れるユーティリティーでもあり、終盤での守備固めでも重宝されている。攻守に存在感を放つ37歳は常々「先発でも途中出場でも、やる仕事は変わらない」と口にする。

 数字に表れない部分での貢献も大きい。15日の西武戦。9回に登板した松井が1点を失い、なお四球で満塁のピンチを招いた。守備固めで三塁を守っていた渡辺直はその場でタイムをかけてマウンドへ。間を取ることで守護神の冷静さを取り戻した。同じ“松坂世代”の平石洋介ヘッド兼打撃コーチ(37)は渡辺直の存在の大きさを強調する。

 「野球IQが高く、間違いなくプラスに働いている。年齢を感じさせず、どんな状況でもチームにいい影響を与えてくれている」

 昨年11月の復帰会見で、渡辺直は思わず瞳を赤くした。己の体に脈々と流れていた“クリムゾンレッド”の血潮が色あせないどころか、より色濃くなっている自分に気付いた。今年2月のキャンプで再びユニホームに袖を通すと、喜びで体が打ち震えた。そして胸に誓った。

 「取ってもらった古巣に何かを残したいし、恩返しがしたい。その思いだけ」

 すべては楽天のために-。覚悟を決めた男は、強い。どんな形でもチームの勝利に貢献できれば、それでいい。【高橋洋平】