ヤクルト山田哲人内野手(25)が史上66人目、71度目のサイクル安打を達成した。巨人12回戦(静岡)で単打、四球、本塁打、二塁打と3打数3安打で迎えた9回1死一塁、適時三塁打で決めた。今季では4月21日、日本ハム戦のソフトバンク柳田以来の快挙。看板打者の記念碑的安打も3-8の劣勢の局面でのもの。勝利をたぐり寄せることはできず、チームは6連敗を喫した。

 完敗ムードでも、山田哲の集中力は切れていなかった。3-8の9回1死一塁。巨人谷岡の直球を逆方向へはじき返した。右翼長野がスライディングキャッチを試みたが及ばない。打球が外野を転々とする間に、三塁まで到達した。左前打、四球、左翼への18号2ラン、左二塁打で迎えた第5打席でサイクル安打を達成した。偉業達成を呼び水に3点差まで迫るも、6連敗。「達成できたことはすごくうれしく思います。三塁打を打てばというのは知っていましたけど狙ってはいなかった。たまたまです」と喜びは控えめだった。

 最後の三塁打だけが「逆方向」だったことに、成長ぶりが凝縮されている。5点差で大振りになりがちな場面だが、山田哲の思考は正反対だった。「本塁打を打っても同点にならない。あの場面、長打はいらない。一番すべきことはつなぐこと。状況を考え逆方向に打とう」。15年から2年連続トリプルスリー達成は、強いスイングと思い切りの良さのたまもの。昨季は相手マークも厳しくなり、チームも最下位。オフに“野球観”を見つめなおした。「やっぱり勝たないと面白くない。勝つために何ができるかが大事でしょ」と、今季は“読み”と“状況判断”の比重アップを決断。データに目を通す回数を意識的に増やした。劣勢の中で達成した高3以来のサイクル安打は、山田哲の進化の証しだった。

 それでも、勝てなかったことが喜びを半減させた。「自分が打たないと負けるという自覚は持っている。最終回に2点を取れたのは明日につながる。前半戦残り2試合、勝てるように、ここって場面で打ちたい」。感覚を研ぎ澄ましながら、勝利につながる一打を放ち続ける。【浜本卓也】