不屈の闘志でマウンドに戻ってきた男がいる。社会人野球七十七銀行(宮城)の小笠原諒(さとる)投手(24)が、血液がんの一種「悪性リンパ腫」からの復活を目指している。昨年の都市対抗野球予選で出場権獲得に貢献しながら、闘病で無念の離脱。2年越しで夢の舞台に再挑戦する。

昨年4月下旬、便に血が混じっているのに気付いた。精密検査の結果、大腸の下に6センチ大の腫瘍が判明。ステージ2で早期の手術が必要だったが、都市対抗の2次予選が迫っていたため、「投げないで今手術するより、もう少し頑張りたい」と先延ばしにした。6月7日の東北第2代表決定戦日本製紙石巻戦では9回から登板し、延長11回サヨナラで勝利投手となった。決戦から2週間後の20日に手術。7月17日の本戦には腹帯をして東京ドームに駆けつけ、仲間の勇姿をエネルギーに変えた。「早く治して絶対またここに戻る」と決意を新たにした。

東京から仙台に戻るとすぐに抗がん剤治療が始まり81キロあった体重も65キロまで落ちた。幸い治療がうまくいき、今年に入り復帰。2月からはブルペンでの投球も再開し、3月の奄美キャンプでは紅白戦で実戦復帰も果たした。体重も72キロまで戻ってきた。今でも月1回の検査を欠かせないが野球のできる喜びを人一倍感じている。「治療に比べたら練習なんて楽なもんですよ」と笑顔を見せた。

青森・三沢商から千葉商大に進み、1年秋に奪三振王のタイトルを獲得。4年秋には千葉県大学リーグ2部でMVPを獲得し七十七銀行に入社。最速146キロの大型右腕で注目され始めた矢先の病魔だったが、「なってしまったものはしょうがない」とくじけなかった。明るいいじられキャラで周囲は笑顔が絶えない。負けると罰ゲームが課される練習でミスをした際には、闘病のことを忘れた仲間から「お前ががんなんだよ」と突っこまれ、「確かにオレはがんです」と笑顔で返すたくましさがある。くしくも5月31日に行われる都市対抗2次予選東北大会は地元青森で行われる。「1イニングでも1人でも投げられたら幸せ。病気になってもできるんだと元気な姿を見せたい」と投げられる喜びを胸に奇跡の復活にまい進する。【野上伸悟】

◆小笠原諒(おがさわら・さとる)1994年(平6)5月31日、青森県十和田市出身。三本木小1年から野球を始め東中-三沢商。千葉商大では1年から主力で活躍。185センチ、72キロ。右投げ右打ち。最速146キロ。血液型O。家族は両親と兄、妹。