少年野球がチーム減、選手減に悩むなか、発足2年で選手5人から46人に急成長した横浜金沢V・ルークス。その理由などを5回にわたって探っていきます。1回目で紹介した「大人が怒鳴らない、押し付けない」指導を徹底することにした経緯には、どんなことがあったのか。

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横浜金沢V・ルークスに大人の怒鳴る声はない。子供たちと話す時は目線を下げ、一緒に考えるスタイルを徹底する。2017年3月、チームを立ち上げた中心メンバーのひとり、澤中貴司監督(50)が振り返る。

「知り合いの息子があるチームの見学会に参加したんです。そこで、打ったあとにバットを放り投げたら、そのチームの指導者に『何やってんだ!』といきなり怒鳴られた」

悪気があってバットを投げたのではない。10歳に満たない子供が頭ごなしに怒鳴られ、怒られたら、どう思うか。「あそこではやりたくない」と言うのは当然だった。

また、指導者のひとりは、あるチームで見た光景をこう振り返る。

「子供がミスしたら怒鳴る。右打ちをしないと怒る。土日は毎週、練習か試合で一年中、野球。これじゃ、野球がつらくなりますよね。試合に出られない補欠の子はもっとそうでしょう」

そのチームで中学に入ってからも野球を続けた子供たちは、卒業生の半分しかいなかった年もあったという。しかも、エースが野球をやめてしまったと聞いて「これはおかしい」と強く思ったという。

ある選手は、以前所属していたチームで投げさせられすぎて右ひじを疲労骨折し、一時、野球をやめていた。

「試合で140球投げたあと、練習で40球投げさせられたこともありました。ピッチャーがいないから、その翌日も試合で投げて。結局、ひじを2度、骨折しました。野球が楽しくなくなった」

楽しいはずの野球をつらいと思わせないため、横浜金沢V・ルークスには以下の取り決めがある。

(1)練習参加を強制しない。野球以外のスポーツや習い事の掛け持ちも自由

(2)月に1度は「ファミリーデー」を設け、家族との時間を大切にする

(3)1学年は基本7人までで、チーム編成は2学年で14人以下を基本にする

(4)投球に球数制限を設ける

こうすれば「強制感」もなく、試合に出られない「不平等感」も生まれにくい。ケガも減り、若年齢での燃え尽きも避けられる。

本来あるべき「子供中心」の考え方。それは「親」との関係にもかかわってくる。(つづく)

◆小学生の球数制限 今年2月、全日本軟式野球連盟は今夏の小学生の全国大会で1日70球(4年生以下の大会は60球)の球数制限を設けることを決めた。周知期間を経て、2020年からはすべての小学生の公式戦に導入される予定だ。選手の肩、ひじの故障防止が目的で、ガイドラインとして「1日の練習は3時間以内」「1年間の試合数100試合以内」が各チームに周知されることになった。

この通達を受けて、東京都軟式野球連盟は特別規則として、東京都大会で1日70球以内、1度降板後は再登板できないなどのルールを通達。ある地区の都大会につながる公式戦では、1球ごとに投球数を示す手製のボードが登場した。

千葉県や横浜市では以前から1試合5回(4年生以下は3回)の制限が設けられていた。

◆横浜金沢V・ルークス 2017年3月、選手5人でスタート。横浜市金沢区を拠点に活動し、わずか2年で選手数は46人まで増えた。月謝は3000円。VはVoyage(大航海)、ルークスはきらめき。子供たちの人生にひと筋の光を差すことができたら、との思いを込めて命名。