少年野球がチーム減、選手減に悩むなか、発足2年で選手5人から46人に急成長した横浜金沢V・ルークス。その理由などを5回にわたって探っていきます。4回目は「子供たちの心のケア」がテーマです。

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横浜金沢V・ルークスには「コンシェルジュ」がいる。コンシェルジュとは、もともとホテルで宿泊客の細かい要望に応える応接係を指す。その「何でも屋さん」がなぜ、少年野球のチームに必要なのか。

チーム内に覇気のない子がいた。声もあまり出さず、監督やコーチからの言葉にもリアクションが乏しい。「この子、本当にやる気があるのかな」と思われた子供は、実は家に帰ると懸命に素振りを繰り返していた。しかも、毎日のようにノートをつけ、「どうすればうまく打てるようになるんだろう」ともがいていた。

それが分かったのは、横浜金沢V・ルークスのコンシェルジュ(現在はチーム代表の妻が担当)が、保護者や指導者たちとつくったグループLINEの恩恵だった。

コンシェルジュ 保護者のみなさんには、家庭での子供たちの様子や、本音を教えてもらえるように頼んでいます。グラウンドで見せる顔と家で見せる顔は違うことがありますから。

子供たちはそれぞれ性格が違う。また、子供なりに家の外での「社会」で気を使い、本音を隠していることもある。

表面的にはやる気の薄そうな子が、実はうまくなりたいと真剣に考えていることが分かり、コンシェルジュは監督、コーチに報告。指導者たちは子供たちの内面を理解した上で、有益なアドバイスを送るなど、その後の指導に生かしている。

野球の話だけではない。去年、子供たちの間に「いじめ」につながる「仲間外れ」の兆候がみられた。コンシェルジュはすぐに当事者の保護者と子供たちから話を聞き、3日後には指導者と保護者を集めてミーティングを行った。事態がエスカレートする前に動いたことで、問題は解決した。

横浜金沢V・ルークスのルールの1つに「常に見られているという意識を持ち、野球選手として責任を持った発言と行動する」というのがある。子供たちにスポーツマンシップを説くため、盲目のアメリカンフットボール選手が、強豪大学のロングスナッパー(パント攻撃時にキッカーにボールをスナップする役目)として活躍した話などもした。

コンシェルジュ 私たちのチームには野球経験のある子、浅い子、元気な子、おとなしい子、いろんな子供がいます。見た目でレッテルを貼らず、互いを認め合って個性が色濃く出るチームの方が強くなると思います。

昨秋の地区大会決勝トーナメント。強豪チーム相手に接戦を演じ、最終回を迎えた。代打に登場したのは、野球経験の浅い選手。「お前なら打てる!」「選球眼がいいぞ!」と全員で応援。その子も懸命にファウルで粘り、四球を選ぶと、子供たちから大人まで、みな大騒ぎになった。

コンシェルジュ みんなが彼の努力を認めて全力で応援できたこと、その子も野球を好きになってどんどん上達して、勇気と力を出せたことに感動し、たまらない気持ちになりました。

所属する子供たち全員の心まで目を配り、気を配るのは骨が折れる。野球の技術や勝ち負けに集中したい指導者の気持ちも分かる。しかし、少なくとも少年野球では、「勝ち負けや技術」より、「心の成長」の方が優先されるべきではないか。

そうはいっても、野球がうまくなり、試合でも結果が出ないと、やはりつまらない。次回の最終回は「楽しく、うまくなり、勝つ」ことに挑戦中の様子を描く。(つづく)【沢田啓太郎】

◆野球ノート 練習や試合の反省などを日記形式で記入して、指導者に連日提出する野球部は多い。選手に課題や目標を明確に言葉にして意識させるとともに、指導者はグラウンドだけでは分からない部員の内面を知るきっかけになる。昨年、甲子園春夏連覇を達成した大阪桐蔭でも取り入れていた。エンゼルス大谷翔平はチームの監督だった父徹さんの勧めで、小学3年生のころから記入していた。最近では専門のノートも販売している。野球専門店「ベースマン」(東京)は学童(低学年、高学年)、中学生のタイプ別に製作。各項目を箇条書きしやすくしている。

◆横浜金沢V・ルークス 2017年3月、選手5人でスタート。横浜市金沢区を拠点に活動。月謝は3000円。VはVoyage(大航海)、ルークスはきらめき。子供たちの人生にひと筋の光を射すことができたら、との思いを込めて命名。