#STAYHOMEの野球ファンへ-。新たに日刊スポーツ評論家に加わった上原浩治氏(45)のピッチング論を3回にわたってお届けします。日米通算100勝100セーブ100ホールドを達成した右腕の投球哲学とは? 第1回は「球速」に焦点を当てながら、上原氏の投球フォームの意外な源流もベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。

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小島記者 今日はピッチングについてお伺いします。こう言っては大変失礼なんですが、先日の広島森下投手の解体新書(5月1日付紙面)はビックリしました。現役時代は、投球フォームについて聞いても「みんな投げたいように投げればええやん」と、まともに答えてくれませんでした。それがあんなに細かく分析するなんて、思ってもいませんでした(笑い)。

上原 そうだったっけ?(笑い)。聞かれたら、ちゃんと答えていたつもりだったけどなぁ。まあ自分のフォームは、自分で考えてやってるからしゃべれる。でも他の人のフォームは、とやかく言えない部分がある。こちらから見ておかしいと思っても、本人が納得してやっているならいい。みんな同じフォームなんてありえない。いいフォームで投げるから抑えられるとも限らない。あれは日刊スポーツに頼まれたから、僕なりの感想を話しただけですよ。引退してるんだし、仕事しないといかんでしょ(笑い)。

小島 ピッチングを実戦的に考えるんだな、と感じました。それでは漠然とした質問ですが、ピッチングで一番大事なのは、なんでしょう?

上原 「気持ち」。とにかく「抑えられる」と思って投げないと。「打たれそう」とか思って投げたら、絶対に打たれる。自分自身、いいピッチングができた時は気持ちが乗っている時。「打たれない」と思って投げていた。それに「うまくなりたい」っていうのも気持ち。そういう気持ちが強ければ、苦しい練習でも耐えてやれる。

小島 いきなり精神論から入りましたね。上原さんは、現役時代もよく練習するタイプでしたが、いつから「気持ち」の大事さに気が付いたんですか?

上原 うーん、大学で全日本の合宿をした時かな。杉浦(正則)さんとかすごいピッチャーがいて、これは練習しないと追いつけないと思った。プロに行きたいと思ったのもその頃。プロに入ったら斎藤(雅樹)さん、桑田(真澄)さんとか、すごい投手がたくさんいた。こりゃ、もっと練習しないとダメだってなった。その人たちと同じことをやっていたら超えられない。人と同じことをやっていたら勝てないんですよ。

小島 いやいや、身長も187センチあるし、コントロールもいい。十分な素質はあるでしょう。

上原 人より恵まれているって言っても、上を見たらキリがない。今は150キロ以上の球を投げる投手がたくさんいる。そういう選手に負けないために、練習するしかないんですよ。

小島 今、素質がある投手を表現する時に「150キロ」って数字を出しましたね。現役時代は「スピードガンなんて関係ねぇ」って言ってませんでした?

上原 それは俺が140キロ台しか出ないから言っていただけ(笑い)。

小島 やっぱりスピードのある球を投げたかったですか?

上原 そりゃ、投げられれば投げられる方がいいに決まってます。でもピッチャーにとって大事なのはスピードガンで測る球速じゃない。打者が「速い」と感じるスピードが大事。ボールのキレだったり、球の出どころが見えにくかったり。打者が感じるスピードが大事ってこと。いい変化球があったり、配球によって、速く感じさせるスピードでもいいんです。どんなに頑張っても150キロは出ないから、キレとか、コントロールで勝負するしかないじゃないですか。

小島 150キロを投げても、打たれたら意味がないと。

上原 それはそうでしょう。でもスピードガンの表示でも、150キロ以上出るなら有利だと思います。ただ、どんなに努力しても、ある程度の球速しか出ない人もいる。だったらスピードガン表示が出なくても、打者がスピードを感じる球を投げればいい。そっちの方が実戦的だし、そういう球を投げられるように試行錯誤しながら練習するんです。

小島 アマチュアで150キロ以上を投げられる投手は少ない。そういう投手は、それほどコントロールがよくなくても抑えられてしまうので、考える習慣がつきにくい。だから野村(克也)さんが「コントロールと頭は比例する」って、よく言っていました(笑い)。打者が感じるスピード感は、どうやって身に付けたんですか?

上原 僕の場合、1番はボールのキレを上げること。今はボールの回転数とか分かるじゃないですか? 自分のアマチュア時代とか若い時は、そういう数字が測れなかったから回転数なんて意識していなかったけど、指先でボールを切るってイメージを、大切にしてました。

小島 自主トレでも人さし指、中指、親指の3本で10キロぐらいのダンベルをつまむようにして持って鍛えてましたよね。また2キロぐらいの重いゴムボールを上から持って、地面に落とさないように何度もつかんだり、離したりを繰り返していました。あれはキレを出すための練習ですよね?

上原 ゴムボールは上腕を鍛えて、肘の故障を防止するための練習。巨人の菅野がやってて有名になったトレーニングだけど、俺の方が早くから取り入れていたんですよ(笑い)。ダンベルをつまむのは、指で強くボールを切るためにやっていた練習です。

小島 時間を1分ぐらいに設定して、叫び声を上げながらやってましたね。キレを出す以外にも、打者に対してスピード感を出す秘訣(ひけつ)はありますか?

上原 投げるタイミングというか、テークバックを小さくして早くトップを作ってから投げられるようにしていました。素早いモーションで投げられれば、打者はそれだけタイミングを取る時間が短くなる。難しいのは、早く投げようとし過ぎて投げ急ぐと、しっかりとしたトップが作れないまま投げてしまうところ。そうなっちゃうと、腕が振り遅れ気味になってコントロールも悪くなるし、キレのある球も投げられない。

小島 それは教科書的な投球フォームとは違いますよね? 本来はゆったりと間をとって、大きなテークバックでゆったりと投げろ、と教わるのが一般的じゃないですか? これは誰から教わったんですか?

上原 誰からも教わってない。高校時代は外野手だったから、元々そういう投げ方をしていた、というのもあるんじゃないかな。でも、この投げ方が自分には合っていると確信を持って練習したのは、プロに入ってから。

小島 誰か参考にした投手はいたんですか?

上原 (高橋)由伸。

小島 ピッチャーじゃない?

上原 うん、外野からの送球を見ていて、捕ってから投げるのが早い。返球のコントロールもいいし、ボールの回転もよかったでしょ。あと、トップが頭の後ろになる。あの位置から投げれば、打者からボールが隠せるし、コンパクトなフォームで投げられる。

小島 確かに。ただ外野手は助走をつけて投げられますが、ピッチャーは止まって投げなきゃいけないですよね。球の勢いがつかないのでは?

上原 だから体を鍛えるんですよ。助走をつけられなくても、下半身を強くして力を出せるようにすればいい。それに下半身を強くすればコントロールもよくなる。

小島 コントロールといえば、上原浩治の代名詞。次回はコントロールについて、教えて下さい。

上原 了解です!

○…上原氏は公式YouTubeチャンネル「上原浩治の雑談魂」で自身の理論や技術、そして野球の楽しさを配信している。登録者数は7万人超。伝家の宝刀スプリットの秘密や、現役時代の秘話など、見どころ満載のチャンネルとなっている。

◆上原浩治◆ うえはらこうじ。1975年(昭50)4月3日、大阪府生まれ。大体大から98年ドラフト1位で巨人に入団。08年オフにFAでオリオールズ移籍。レッドソックス時代の13年にワールドシリーズ制覇。18年に巨人復帰し、日米通算100勝、100セーブ、100ホールドを達成。右投げ右打ち