30年前の1990年5月24日、ナゴヤ球場で大乱闘が起こった。危険な投球が引き金となり中日星野仙一監督(故人)が巨人ベンチのヤジに激高。乱闘になった。星野監督が止めに入った巨人水野雄仁投手にビンタを食らわすシーンがテレビで中継されるなど衝撃の展開となった。

【復刻記事】

ナゴヤ球場で行われた中日対巨人戦で乱闘があり、中日ベニー・ディステファーノ外野手(28)が暴力行為で退場処分を受けた。中日攻撃の3回裏2死三塁。巨人槙原の投球が打者バンスローの顔面付近を襲ったため、両軍ナインがにらみあった。一度は引き下がりかけたが、審判団に危険球と訴えていた中日星野監督に対し、巨人松原打撃コーチが「あそこを狙うのは当たり前」とヤジったことから、星野監督が怒って乱闘となった。友寄球審は暴力行為の目立ったディステファーノを退場とし、14分間の中断後試合は再開した。さらに9回、鹿島忠投手(28)が、クロマティに危険球を投げたとして退場処分を受けた。今季退場者はセ4、5人目、両リーグでは7、8人目となった。

やり場のないものしか、残らない。勝った巨人も、負けた中日にも。グラウンドには、怒りしかなかった。一転、二転…。展開をみると素晴らしいゲームが、殺ばつとした後味しか残らなかった。

大乱闘。3回裏。バンスローに槙原が投じた顔面付近への初球が発端だった。この日2度目の危険な球に、バンスローが怒った。捕手・村田に不満をぶちまけた。それで済めば、何も起こらなかったはずだ。両軍ナインがにらみ合ったあと、引き揚げて、星野監督が「危険投球だ」と抗議している最中だ。巨人ベンチの松原コーチが発したひと言が、火に油を注いだ。

「あそこを狙うのは当たり前だ。それが分からないのか。いつまでグズグズ言ってるんだ」。それを侮辱と取った星野監督が激高。「なんや! 出てこい! もう一度言ってみろ」と叫んで、巨人ベンチに詰め寄った。もみ合い。そこで大暴れしたのがディステファーノだったのが、異常だ。止めに入った江藤コーチを殴り、唇の上に1センチの裂傷を負わせた。血だらけになる同コーチに、両軍ともエキサイトした。

星野監督を止めに入った水野も張り手を食らう。原が抱きついて押さえる。藤田監督が星野監督の腰を抱き、「監督をやじったのは申し訳ない」と謝って、一時は収拾に向かったが、審判団が暴力行為を働いたディステファーノに退場宣告してまたひともん着。

「松原も退場させろ」と星野監督が執ように抗議した。確かにやじも退場の対象になる。ファンをそっちのけにしたまま、14分間の中断。ようやく同監督も引き下がりゲームは再開した。

長い試合。投手が内角を攻めたら非難の声が上がる。何度も一触即発の雰囲気。原が、緒方が、落合が、のけぞるシーンの連続。8回に広田がバンスローの顔面近くへ投げ、また全員がベンチを出かかった。審判団は危険球とみなし、「次にどちらのチームでも、(危険球を)投げたら退場」を宣告した。それが現実となる。9回表、クロマティが鹿島から頭付近に投げられ、マウンドへ行きかけた。鹿島退場。あまりにも「野球」とはかけ離れてしまった。

試合後、当事者たちは重い口を開いた。

藤田監督 お互いに言葉のやり取りだけで感情的になって…。こんな試合はもうノーサンキューです。

星野監督 …。(無言)

松原コーチ オレは関係ない。オレは無口なんだ。トラブルメーカーじゃない。

江藤コーチ (止血の薬を塗り)選手がケガするよりはいい。終わったこと。

今季初の2人の退場者を出したことは不名誉。「戦場」のグラウンドに、血が流れたのも不名誉。4時間59分の長い戦いで残ったのは、互いの憤りだけだった。

◆友寄球審 鹿島の危険投球は、その前に広田の危険投球の際に両チームへ警告を出していましたから。

◆福井責任審判 対応は遅くはない。多少の小競り合いお互い様だから仕方ない。でもディステファーノは全く無抵抗の江藤コーチの顔を殴った。だから退場させたんだ。何もかも審判のせいにされたんじゃ立つ瀬がないよ。

◆中日中山球団社長 どんな形であれ暴力は良くない。ディステファーノについては事実関係を良く調べてからだ。とにかく暴力はいかん!

※記録、表記などは当時のもの