阪神近本光司外野手(25)が日刊スポーツのオンラインインタビューで開幕直前の意気込みを語った。

昨季長嶋茂雄超えの新人最多安打記録を作り、盗塁王を獲得したヒットマンは今季、矢野監督の目玉構想で2番に入る。一時期は2番への迷いもあったが、指揮官からの激励で吹っ切れた舞台裏を告白。19日の開幕巨人戦(東京ドーム)で菅野撃ちに全力を尽くし、会心ダッシュを導く意気込みだ。【取材・構成=奥田隼人】

  ◇  ◇  ◇

新人の昨季はリードオフマン。2年目の今季は2番に入る。他の5球団の2番は巨人坂本、ヤクルト山田哲、中日平田、DeNAソト、広島菊池涼が濃厚で、軒並み強打者をそろえる。

近本 (強打の2番は)イヤですね。(走者一塁で)バントをしてくれたら得点圏に進むけど、アウトが1つ増える。ヒット、長打が出る方が、守備にしても投手にしてもイヤだなと。

長打力では他球団の2番に分が悪い。だが、持ち前の快足と小技もできる器用さがある。長嶋茂雄超えの新人最多安打を放った昨季は、640打席に立って併殺は2個だけ。今年の練習試合でも矢野監督がバントさせる場面はほぼなかった。一方で昨季9本塁打した小力も持ち味。小技プラス、パンチ力ある打撃で相手をかき乱す。目指すは変幻自在の“くせ者2番”だ。

近本 何をしてくるか分からない、いろんな選択肢を持ちたい。バントもそうですし、セーフティーバントもそう。「イヤだな」と単純に思うだけではなく、「何をしてくるんだろう」と考えてもらえるのが、一番いいのかなと思います。

実は2番を任され当初、チーム打撃などで迷いがあったという。その時、矢野監督の一言で視界か明るくなった。新人時代「1番」の時と同じように、自由に打てという助言だった。

近本 以前(監督と)話をした時にゲッツーも少ないし、しっかり打ってチャンスをどんどん広げろと。他のチームの2番とは全然違って、打って長打で1点返すバッターではない。自分の中で「ここはどういう風にしたらいいんだろう」とか正直、バント(のサインを)出してもらった方が楽なんです。そこでヒッティングのサインが出た時に「どこ打ったらいいのか」という迷いが結構あった。そういうところを聞いた時に「いつも通り、ランナーいない時と同じように打ってくれた方がいい」と。自分らしく、どんどん打っていきたいと思います。

もう迷いはない。コロナ禍で約3カ月遅れの開幕。敵地に乗り込み、19日に巨人との伝統の一戦に挑む。

近本 去年1年しかやっていないですけど、今までオープン戦でやってきたことがまたゼロになって、再スタート。セレモニーだったりで普段の試合とはまた違う緊張感がありますね。ファンとして僕も小さい頃から見ていた。阪神-巨人戦という名前を聞いただけで『違うな』という感じはします。どんな相手でもしっかりやらないといけないのは一緒ですけど、やっぱりメディアの捉え方だったり、そういうところは違うなというのはありますね。

1回表のプレーボール直後、1番糸井に続いてすぐ打席が回ってくる。相手はエース菅野。その第1打席でどんなパフォーマンスができるか。糸井の打席結果にもよるが、その重要性は誰よりも分かっている。

近本 1本出れば気持ちは楽ですね。

実は昨季、巨人戦は打率2割4分5厘とセ・リーグ5球団で最も苦戦した。東京ドームでの対菅野は打率2割2分2厘。だが、対策も重ねてきた。いきなり先制パンチをかませば、自身もチームも乗っていける。理想は初回に先制点を導く速攻だ。15年ぶり優勝を目指す矢野監督が「2番近本」に託す期待値は大きい。

近本 勝利のため、ファンのためにプレーするだけでなく、新型コロナウイルスで苦しい状況に置かれている方々に、スポーツという娯楽の大切さを伝えられたらいいなと思っています。

3日後、誰もが経験したことがない特別なシーズンが幕を開ける。日本中を明るくする意気込みで、新2番の挑戦が始まる。

 

取材後記 どっしりした落ち着きを感じた。コロナ禍による長い自粛練習期間を経て、紅白戦と練習試合を含めて4試合目でようやく初安打。「ズレ」があったのではと予想したが、思わぬ答えが返ってきた。「ズレ…てはないですね。感覚、思っていることと、実際にズレていたらズレていると思うんですけど、そこがあまりズレてなくて。『あ、やっぱり打てないな』と(笑い)」。久々の実戦。打てないで当たり前の感覚で打席に入っていた。だから焦りも全くなかった。「『ここを直せば、必然と打てるのかな』というのは漠然とあった」。練習試合10戦を終えて打率は2割5分。だがそれは課題を消化しながらの結果。しっかり開幕を逆算している。【奥田隼人】