開幕投手を務め、ここまで4勝を挙げている阪神エースの西勇輝投手(29)。今年はプロ12年目で初めて、スパイクをモデルチェンジしました。メーカーが西投手の要望を聞き、金型を一から作った“世界に1つだけ”のスペシャルアイテムです。好調をサポートしているスパイクへのこだわりと秘密に迫りました。【取材・構成=磯綾乃】

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精密な制球力を武器とする西勇らしい、繊細なこだわりがつまっていた。今季開幕から導入した新スパイク。変更されたのは、ソール(靴底)の部分だ。スパイクの金具は少し飛び出た土台の部分にそれぞれ埋め込まれるが、足の内側に当たる部分の土台が、斜めになっているのが特徴だ。SSK社の担当者、才田亮氏は「この作りは初めてだと思います」と話す。

現在の球界では「埋め込み型」と呼ばれるソールが主流で、必ず金具を付ける土台が必要になる。西勇は、投球の際に足の内側を地面に擦(こす)るようにして力を込めるが、その土台があると引っかかる感触があったという。スムーズな投球動作を行うためのミリ単位の繊細な感覚。才田氏は「精密機械のようなコントロールをする西さん独特の感覚です。スパイクの内側も、他の投手とは違う擦れ方をしています」と説明する。

そのため、これまではソールに金具を直接留め金で付けたものを使っていたが、留め金の分だけ重くなってしまうのが課題だった。そして今回、昨年12月のアドバイザリースタッフ会議で西勇の意見を聞き、新スパイクを開発することに決まった。「西さんの言っていることは面白く、興味深かった。そういうことを気にしている選手は他にもいるんじゃないか、と思いました」と才田氏。西勇らしい感覚やこだわりと、同社の開発方針が一致した。

これまで西勇が使っていたスパイクは375グラム。新スパイクは351グラムと、24グラムの軽量化に成功した。スパイクの10グラム単位の変化は大きく、疲労感軽減にもつながる。そして金具の土台部分が斜めになり、より外側に置かれたため、スムーズに地面に足を着いて力を伝えることができる。西勇も「足を上げる時に軽さを感じる」と話していたという。

新スタイルのソール部分は現在、特許を申請予定。昨年も、阪神梅野のミットに搭載された「ユーループ」の意匠登録出願を行った。リング状のひもで薬指を締めて、ミットと手に一体感をもたせるもので、現在も在庫がないほど売れ行きは好調だ。「彼らの意見を商品化することが役割です。アマチュアの選手でも、ひょっとしたら同じことを感じてプレーしている子がいるかもしれない」と才田氏。プロ野球選手の細かなこだわりが、たくさんの選手たちのプレー技術も向上させるかもしれない。