猛虎奇跡へ、ベテラン処遇もポイント! 夏の長期ロードを終え、阪神が甲子園に帰ってくる。

勝率5割目前だったが、ヤクルト戦3連勝はならず、借金3の厳しい状況は変わらない。そんな中、85年の阪神日本一のトラ番で、元和泉市長の経歴を持つ井坂善行氏(65)は、取材経験や政治経験から「中途半端なベテランの使い方が命取りになりかねない」と警鐘を鳴らし、「今こそ、胸襟開いて話し合う時」と提唱する。

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あれは確か、いや背番号8を確認したから、間違いなく球界最年長の福留だった。19日、東京ドームでの巨人戦。テレビ中継は守りを終えた阪神ナインがベンチに帰ってくるシーンを映し出していたが、その時、ベンチに控えていた福留が2、3歩前に出て、帰ってきた外野手にボールを手渡した。次の守りの時に外野手同士がキャッチボールをするためのボールだ。

高校野球に例えるなら、いわゆる「補欠」の役目である。球界最年長だからといって、試合に出ていない時、ベンチでふんぞり返っているような福留ではないし、ベンチ入り全員で戦うということからすれば、当然かも知れない。しかし、今この時、なぜ福留がこの役目を…と寂しくなった。

3か月遅れで開幕となった今季。矢野構想は大きく狂い、大幅な軌道修正を迫られながらの戦いが続く。

その主因は野手では福留、糸井。そして、投手では藤川、能見のベテラン勢の不調だろう。現在、藤川は今季2度目のファーム調整中で、福留は23日のヤクルト戦に12試合ぶりのスタメンでフル出場したが、4の0。糸井も右ヒザの状態が芳しくないのか、単発的な試合出場が続く。能見は開幕以来、中継ぎ起用が続いているが、失点するケースが目立つ。

プロ野球を取材していると、どんな名監督であっても、迫りくる「引退」という2文字と闘っているベテランの処遇には頭を悩ませるものだ。先の4人がいきなり引退ということではないが、これだけの実績を誇るベテラン勢にしては、いかにも今の立ち位置は中途半端過ぎるし、そんな「空気」がチームに悪影響を及ぼすことも少なくない。

昨年、阪神・鳥谷、巨人・阿部の2人に対するフロント、現場の対応は対照的だった。鳥谷の場合、ロッテが獲得したから良かったものの、あのままなら阪神の貢献者がモノ言わぬままユニホームを脱ぐことになっていた。チームへの影響も考えて、シーズン終盤の鳥谷は沈黙を貫いたが、本音がポロリとでも漏れれば一大事に発展したことだろう。

だから…というわけでもないが、もうすぐ今季の折り返しを迎える。矢野監督が公約する日本一を果たすには、奇跡的な巻き返しが必要となってくるし、そのためにはベテランの力は欠かせない。単純に打つ、投げるということではなく、経験からくる「力」である。

矢野監督には、ベテラン勢との胸襟開いた話し合いを勧めたい。福留が補欠の役目を担ったとしても、本人も若手も納得できる環境作りが求められる時期に差しかかっている。

◆井坂善行(いさか・よしゆき)1955年(昭30)2月22日生まれ。PL学園(硬式野球部)、追手門学院大を経て、77年日刊スポーツ新聞社入社。阪急、阪神、近鉄、パ・リーグキャップ、遊軍記者を担当後、プロ野球デスク。阪神の日本一、近鉄の10・19、南海と阪急の身売りなど、在阪球団の激動期に第一線記者として活躍した。92年大阪・和泉市議選出馬のため退社。市議在任中は市議会議長、近畿市議会議長会会長などを歴任し、05年和泉市長に初当選、1期4年務めた。現在は不動産、経営コンサルタント業。PL学園硬式野球部OB会幹事。