えっ、空中イレギュラー!? 阪神は野手全員を使い切る総力戦で今季9度目の引き分け。打線改造もあった一戦でハイライトの1つが、代打原口文仁捕手(28)の秘打だ。8回2死満塁から強打でボールをたたきつぶし、三塁正面へのライナーが空中で軌道を変えて左前へ抜けた。広島ベンチも驚いたこの同点の2点適時打がなければ敗色濃厚だった。

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矢野阪神が前代未聞の秘打から引き分けに持ち込んだ。1-3と2点を追う8回だ。

広島の3番手ケムナの3四球で2死満塁の場面。代打原口が放った打球は奇妙な軌道を描いた。ハーフライナーに気味の打球は、三塁手・三好のグラブ横をシュート回転でスルリ。土壇場の2点タイムリーで同点に追いついた。原口が「運も味方してくれた」と言えば、広島の山田内野守備走塁コーチは「空中イレギュラーしたのか、少し中に入った」と驚きの声を上げた。

試合前から矢野監督は激しく動いた。売り出し中の2年目小幡をプロ初の1番、好調の近本をプロ2度目の3番で起用。1番小幡、2番北條、3番近本、4番大山と将来の猛虎打線をイメージさせるラインアップで臨んだ。試合直前には珍しくベンチ前にナインを集め、幾重にもなった輪の中心で身ぶり手ぶりでゲキを飛ばした。序盤からスッキリしない展開が続いたが、原口の秘打で試合が動きだした。

野手全員を使い切る総力戦で最後まで食らいついた。同点の延長10回には途中出場の3年目熊谷が中前適時打を放ち、一時は勝ち越しに成功した。結局、守護神スアレスが同点に追いつかれて今季5度目のドローに終わったが、1番抜てきの小幡が2安打と光もあった。サンズ&ボーアの不振が続く中、攻撃でも見せ場を作った。

矢野監督も前を向く。「トータル的には勝ちたかったけど、負けなかったことは大きいと思っている。みんながよくつないで、全員で何とかこういう試合ができた。後からいくメンバーも頑張ってくれたし、ピッチャーもつないでくれたから」。コロナ禍に苦しみ、逆風が吹き荒れるシーズン終盤戦。最後までファイティングポースを貫いた。【桝井聡】