ソフトバンクが3年ぶりにリーグ優勝を奪回した。マジック2で迎えた2位ロッテとの直接対決を制し、1リーグ時代を含めて21度目の優勝。昨季まで終盤の失速で西武に連覇を許したが、10月に入り15年ぶりの12連勝で加速した。新型コロナウイルスの影響を受けたシーズン。6年目の工藤公康監督(57)はコンディション、データ重視の采配で雪辱した。次はクライマックスシリーズを勝ち抜き、4年連続の日本一に挑む。

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力強い抱擁や胴上げはない。マスク姿の選手がグラウンドになだれ込む。工藤監督は選手たちとグータッチし、マスク越しに笑顔を確かめ合った。胴上げの代わりに全員で大きな輪をつくり、選手会長の中村晃の音頭でファンと万歳三唱。1934年に始まった日本プロ野球史上、全く新しい様式で喜びをかみしめた。

「絶対に勝ちたいという思いだった。今年は調整が難しい中、選手はよく自分で調整してくれた。選手が勝つために最善を尽くしてくれたからだと思う」

コロナ禍で十分な調整ができずに開幕。コンディションを重視しないと故障を招くと判断し、メンバーを「日替わり」にした。「本来は固定したいが、今年に限っては難しい」。選手の状態に相手とのデータを掛け合わせ、「初回に3、4点を奪える打順」を求めた。同一オーダーは5度だけ。試合後に翌日の打順を最大6パターン考えた。4番には川島、上林、栗原ら12球団最多の9人を起用し、2番柳田も含め「打順破壊」を貫いた。「ミスはつきもの。使う監督が悪いと思って、思い切ってやってほしい」。イニング別得点で初回の72、同得失点差20はともにリーグ最多。投手陣は故障歴のある先発は出場選手登録をあえて外して休ませ、守護神森の3連投は昨年5度から2度に。故障禍を頻発させず、最終盤の10月に12連勝した。

決断を重ねた。現役最多2171安打の内川を1度も1軍に呼ばなかった。春季キャンプで結果重視を掲げ、工藤監督は「オープン戦で結果が出なかった」として開幕2軍を命じた。2軍で数字を示しても「ファームからコーチの報告を聞く中、タイミングが合わなかった」と時には非情に映るほどまで若手を選択。競争意識を発生させた。

自らも指導者として成長を求めた。昨オフのV旅行後に渡米。メジャーで監督通算1278勝のジョー・マドン氏(66=現エンゼルス監督)に知人を介して面会を申し入れ、実現した。「話をする中、選手と話をしないといけないと感じた」。気付きを行動に移し、コロナ禍で約3カ月間あった自主練習中、1軍野手全員と「電話面談」した。不慣れなパソコンで表ソフトを使い、投手陣のため調整シミュレーションを作って助言し、離脱者を出さず開幕を迎えた。また「今年は何を決めるのもコーチと話をした上で決めた」と首脳陣の連携も大切にした。

就任6年目で3度目、リーグ優勝回数では王、秋山の両監督に肩を並べた。今季繰り返した言葉がある。「日々新たに。今日が終われば明日です」。次はV9巨人しか経験のない偉業、4年連続日本一が待っている。「CSは1つも落とさないつもりで勝ち、日本シリーズでしっかり勝てるようにしたい」。本当のラストスパートはこれからだ。【浦田由紀夫】