涙の1球-。「いややばかったです。絶対泣かないだろうなと思って、みんなとそういう感じの関係で、ずっとやってきたので。でもやっぱ最後の最後に思いが来たっすね。マウンドで泣いたのも初めてじゃないですか」。

西武高橋朋己投手(31)が30日、イースタン・リーグ巨人戦(カーミニークフィールド)で引退登板に臨んだ。同点の9回にマウンドに向かった。「もう耐えられないです。痛過ぎて」とブルペンでの投球練習は立った捕手相手に肩を温めた。マウンドで5球の投球練習も何とか腕を振った。打者に巨人モタを迎えた現役最後の1球。106キロ直球を何とかストライクゾーンに投げ込んだ。遊飛に打ち取り、マウンドで松井稼頭央2軍監督から降板を告げられた。

高橋朋 いや痛かったっす。いろいろボルタレンとか薬を飲んで、痛みを消すやつで投げていて、キャッチボールは良かったんですけど、いざバッターが立ってみるとやっぱり力が入るので、投げた瞬間バコッっていったので。もう1球で終わって良かったなって。三振は取りたかったですけどね。正直…。

かつて150キロ超の直球を武器に球界の猛者をなぎ倒してきた。巨人村田(現2軍コーチ)には「チャップマン(ヤンキース)よりも速く感じる」と称されこともある。ことあるごとに「僕はプロ野球選手になれるような能力はない。いろんな人たちのおかげでプロになれた。感謝しかない。だから『太く短く』だと思っている。今しかできないことを全力でやるだけです」と繰り返し口にしていた。

メットライフドームでナイター前に同期入団の守護神増田、金子、同学年の木村に加え、十亀、平良ら1軍選手も駆けつけた。「あれはずるいです。ブルペンでずっと泣いてましたもん。自分にとってはマス(増田)は特別ですね。同級生ですし、社会人から一緒にきてますし。マスが自分のことどう思っているか分からないですけどね。平良とかは本当に弟みたいな存在なので、すごくうれしく思っています」と明かした。

試合は延長10回にルーキー岸がサヨナラ打で、先輩の花道を勝利で飾った。育成選手の“引退試合”は異例。8年間の現役生活の半分はケガに苦しみ、リハビリに明け暮れた。どんな時でも明るく、前向きさを貫いた姿勢に、球団が感謝の意を込めて花道を用意した。高橋朋は松井2軍監督からウイニングボールをプレゼントされ、最後は汗を流し続けてきたマウンドで首脳陣、ナインから胴上げをされた。

登板後は開口一番「心の底から感謝というか、ありがとうございましたという気持ちで投げましたね」。バックネット裏のスタンドから家族も見守り「今日の朝は特にいつも通り送り出してくれて、昨日の夜はいろいろ話はしましたけど。そんな特別野球やめるからどうのこうのじゃなくて、普段通りいてくれる感じがよかったです」と話した。プロ野球人生を振り返り「短いですけど、濃く幸せな時間で終わることができました。リハビリで入ってきてリハビリで終わったので、そこはありますけど。本当に濃かったなと思います」としみじみ話した。最後は「もう満足してます。やることやりきってのあれなので。全然悔いは無いですね」と晴れ晴れした表情でユニホームを脱いだ。【為田聡史】