阪神の20年シーズンは、60勝53敗7分けの2位だった。打倒巨人を掲げて日本一を目指したが、直接対決で8勝16敗と大きく負け越し、結果として大きな差が開いた。一方で、多くの誤算がありながら昨年より順位を1つ上げ、貯金も6個増やした。2年目矢野阪神の「明と暗」と題し、1年間の戦いを検証する。

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矢野監督の言葉が忘れられない。9月15日、巨人に優勝マジックが点灯した日だ。3-6で巨人に敗れ、指揮官は語った。

「受け止めていかないといけない部分がある。きょうも球際であったり、ここで決めるとか、そこの差が出た。そういう部分がジャイアンツに上回られてしまったかな。球際とか、ここ抑えたら(また、打ったら)というところの勝負どころ。投手も粘れるか、打者も決められるか、つなげられるかというところ。成長がもっともっと必要かなと思います」

球際という言葉を借りれば、阪神と巨人に大差がある数字に目を背けることはできない。阪神の失策数は両リーグワーストの85。巨人は両リーグ最少の42。虎は昨年も両リーグで最も多い102失策だった。1試合あたりでみても、19年0・713→20年0・708とほぼ同数で、金本監督時代の18年から3年連続両リーグ最多失策になった。直接対決でも、巨人の守備力の高さをみせられたシーンがあった。

10月3日の一戦では、2点を追う5回2死一塁。北條の中堅フェンス直撃打で一走近本が本塁生還を狙ったが、アウト。俊足の近本でも阻止されるほど、丸-坂本の完璧な中継プレーだった。同日の6回2死一、三塁では梅野の右中間方向への低い打球を、右翼松原に好捕された。9月15日には、3点を追う9回1死一、二塁。近本のセンターへ抜けそうな打球を二塁吉川尚が飛びついて捕球。倒れた状態のまま二塁にトスしてアウトに。多くの好プレーに虎の反攻チャンスは摘まれていた。

もちろん、阪神も守備力向上を目指してきた。キャンプから早朝練習で数選手がノックを受けるシーンは恒例で、シーズン中も若手選手が全体練習前にノックを受けた。19年→20年の失策数の内訳を見ると、大山が20→6、木浪が15→8、糸原が7→1。糸原は負傷期間などで出場数も63試合にとどまったとはいえ、主力選手には改善が見えた。だが一方、チーム全体でのミスの多さは結果的に変わらず。チーム投手陣の失点460に対し、自責393。その差は67点。失点から自責点を引いた数字もセ・リーグで最も悪い。投手陣の暴投は43で、143試合だった昨年でも39だった。

また、投打ともに、勝負どころでの強さを身につけることができるか。巨人との直接対決で象徴的なデータがある。阪神の巨人戦での得点圏打率は2割2分3厘しかなく、巨人は阪神戦で得点圏打率3割2分9厘。勝負のかかったシーンで投手はいかに踏ん張れるか、打者は結果を残せるか。今季巨人に対し、逆転勝ちは1度だけ。阪神が巨人に食らった逆転負けは3度。勝負の分岐点で投打とも屈するケースが多々あった。

矢野監督は12日のシーズン終了報告の会見で、守備面について「大きな全体の課題として残りました。全員の意識、準備、気持ち、そういうものがあってこそ改善される。チーム全体、僕たち首脳陣の立場からも、しっかりやっていきたい」と語った。得点力アップを目指し、来季はコーチの新たな職責として「バント担当」「分析担当」も設けられた。16年ぶりのVへ、課題克服が求められる。(数字は13日現在)

【松井周治】