悲願の優勝へ3年目の勝負に挑む阪神矢野燿大監督(52)と、“広島3連覇監督”で日刊スポーツ評論家の緒方孝市氏(52)の「同学年対談」が実現した。4日まで、阪神の沖縄・宜野座キャンプ第1クールを視察した緒方氏に、矢野監督がオレンジ色のサングラスに込めた思いを披露するなど、本音トークを展開した。【取材・構成=桝井聡、編集委員・高原寿夫】
◇ ◇
緒方氏(以下、緒方) 今季は優勝しかないよね。
矢野監督(以下、矢野) もちろん。
緒方 巨人に連覇を許している。対戦成績も続けて負け越してるね。
矢野 緒方がやってるときは巨人に強かったな。どうやったら巨人に勝てるの? 教えてや。
緒方 1年目はすごく意識したんよ。「巨人に勝たな優勝できん」って。それで自分のチームをしっかり作り上げることに目を向けられんかった。巨人だけに勝ってもダメ。他に4球団あるわけやから。そこから、いかにカープの野球を作り上げるかに専念したね。
矢野 そうやね。でもオレは両方あると思うねん。緒方が言ったようにタイガースの野球をやる、相手がどうであろうと変わらない強さ。これは身につけていきたい。でも巨人を意識して戦う部分もあっていいかなと思う。そこをマイナスにするんじゃなくてプラスにする。だからな。オレ、キャンプ初日、オレンジ色のサングラスで来たんよ。
緒方 それにどういう意味があるん?
矢野 打倒ジャイアンツを意識した(笑い)。コーチミーティングで話したとき、それやりましょう、ジャイアンツ倒しましょう、意識しましょうって。だからオレもマイナスにするんじゃなくてプラスに。モチベーション上げて「巨人倒しにいこう」って。緒方が言ってくれたように、まずは自分たちの野球を作る。そこに打倒巨人のプラスアルファを乗っけていく。
緒方 それでエエよ。その思考、その考えを持ってるんだったら。ここが一番大事なところよ。これを聞けた。この言葉を聞けた。なかなか、こんなんをパッと言うのは難しいんよ。
矢野 でも監督で優勝ってめっちゃうれしいんやろ? オレ、監督の1勝ってこんなにうれしいと思わんかった。それなら優勝ってどんなんやって(笑い)
緒方 これはね。達成しないと分からないこと。達成して初めてわかる。だから達成せなあかん。
矢野 達成したいな。オレもさ、一応、選手ではリーグ優勝まではいってるからさ。優勝パレードでめっちゃ感動して。だから監督で優勝したらどんなんやろ、どんな感動があるんやろって思う。
緒方 それはもう自分だけの喜びじゃないからね。みんなが幸せになるんよ。
矢野 いや~。ええな。 3年連続やで。あやかっとこ(緒方にすりすり)
緒方 それが監督のミッションやで。やらなあかん役割なんやから。
矢野 緒方が見た景色をこちらも見にいきたいと思います。
緒方氏(以下、緒方) キャンプ初日の練習を見て監督として選手の動きをどう見た?
矢野監督(以下、矢野) うれしかった。張り切ってやるやろとは思っていたけど、予想よりも張り切ってる感じが見えた。
緒方 オレも外から見させてもらって「おっ!」て思ったんよ。4日から紅白戦を入れていたわけやん。4日に紅白、やれるんかな? キャンプの第1クールに。そう思ったけど選手の動きを見て「全然いけるじゃん、これ」って。それだけ自主トレで体を作ってきている。監督としての目線で見たら、絶対、手応えを感じるはずよ。
矢野 いやあ~。うれしいな。緒方にそう言ってもらえると。
緒方 その上で今年は優勝しかない。ポイントはどこに置いている?
矢野 よく言われるのが、やっぱり失策数ね。
緒方 そのへんは川相さんに来てもらってるね。
矢野 これはすごくよかったと思う。臨時守備コーチで来てもらっているんだけど、ずうずうしくバントも教えてもらったり。ああ、なるほどなって思うし、オレ自身も失策を減らしたらもっと勝ってるっていうのがある。それとやっぱり投手力かな。
緒方 オレ自身も戦力分析するとき、絶対、投手陣にポイントを置いた。でも去年の戦いはしんどかったやろ?
矢野 めっちゃしんどかった~。
緒方 よう、やりくりしたよ。あんだけスタート悪かったのに、やっぱり最後修正してきて。
矢野 ホンマに苦しかったしね。コロナを言い訳にするつもりはないけど、それはどこのチームも同じやから。その中で当たり前のことなんやけど、諦めないということをオレはずっと言ってきて。凡打の時に一塁までどれだけ走れるか。投手やったら、打たれた後にベースカバーにどこまで行けるか。あかんときにどれだけできるかという話をずっとしてきてる。
緒方 それは確実に浸透してきてるよね。
矢野 自己満足かもしれんけど、チームとしてやり切ってくれてる。それで1年目(19年)も最後6連勝という形でいけたっていうのとかあると思う。
緒方 オレがやめる原因になった(笑い)。
矢野 それはないけど(笑い)。でもそういう辺りがチームとして、オレの中での手応えとしてなんとか粘れてたのかなと思う。
緒方 それが矢野の目指す野球やね。3年目はそこの部分が一番出るところ。いい年齢に達している選手が多くなっているし、チームとして成熟していく時期。ここで優勝をつかめたら本当に常勝軍団になる。オレはそう見ている。
矢野 いや~。ありがとう。本当にまだ伸びしろもあるし、大山や近本ももっともっと伸びると思う。そういうところが中心になってもっと引っ張っていってくれたらなと。それと生え抜きの日本人選手というのを育てていきたいのはもちろんあるんやけど。現状どうしても外国人を頼らないといけないチーム状況にはあるから。
緒方 それは当然よ。外国人の力っていうのは優勝するためには不可欠。外国人の力って、1年間、戦う上で必要。「頼る」っていう考えじゃなく「絶対に必要」やから。
矢野 そうやな。
緒方 その上でやっぱりキーは大山、近本とか。去年、近本も苦しんだ中で成績残せたし、頑張れたし。大山もしかり。出だし悪かったけど最後はタイトル争いするくらいにね。大きな自信になったと思うし、ひと皮むけた中でプレーしてくれると思う。明るい材料ばっかりやん。
矢野 この時期はね(笑い)。「何勝するんかな」と思うよね。新人も楽しみやし、どうなるんやろうって期待してしまう。でも、結果を出した緒方がキャンプに手応えを感じてくれてることに、オレは自信を持てた。ありがとう。
◆すごい昭和43年世代 東北福祉大から90年ドラフト2位で中日に入団した矢野監督と、佐賀・鳥栖高から86年ドラフト3位で広島に入団した緒方氏はともに1968年(昭43)12月生まれ。阪神矢野、オリックス中嶋、ヤクルト高津と12球団中、3球団で68年生まれが監督を務める。他に野茂英雄氏、阪神前監督の金本知憲氏と著名選手が多いが「昭和43年会」は結成されていない。