現状維持は事実上の後退を意味する。常に考え続ける里崎智也氏(45)の生き方は、まるで泳いでいないと死んでしまうマグロやカツオのようだ。いつだって日本球界の問題点、改善点に思いをはせる里崎氏が、新しい指標をここに提案する。

   ◇   ◇   ◇

日刊スポーツ評論家のアイデアマン里崎智也氏が新QS(7回3自責点=以下は省略)を提唱するのには、2つの背景がある。

(1)本当の意味での先発投手のクオリティーアップが求められている。

(2)負担増傾向にある中継ぎ陣に対する警鐘。

里崎氏 6回3自責点のQSは、防御率に換算すると4・50点になります。私はこの数字を考える時、常に4・50点でいいのかな?とずっと感じていました。もちろん、QSの考え方の根底にあるものは理解しています。先発投手として試合を作る最低限の役割として、6回を3自責点という目安に置いたと理解しています。それを踏まえた上で、先発投手の防御率は3点台前半が合格点であって、さらにレベルの高い先発投手は防御率2点台を目指してほしい。そういう考え方からすると、新QSは防御率換算すると3・86です。目指すべき先発投手に近い指標になると言えます。

先発の意識を6回から7回に引き上げることで、先発投手がより高いレベルで競い合うことを目指す。そして、そのことはすなわち救援陣の負担を軽くすることにつながる。つまり、救援陣の負担減は、チーム強化に直結するという図式が見えてくる。

QSで残り3イニングを救援陣に託す考え方から、新QSで2イニングを任せるコンセプトへ。そして、里崎氏の視点は感染症を克服するタイミングを見据えている。これは見落とせない。

里崎氏 今季は特例ルールとして、1軍登録メンバーは従来の29人から31人に、ベンチ入りメンバーは25人から26人に増員されました。でも、いずれはもとの登録メンバー、ベンチ入りメンバーに戻すことになると思います。さらに、今季は9回打ち切りという特別ルールでしたが、これも延長戦復活も十分にあり得ます。そうなると、近い将来にはベンチ入りメンバー、延長戦復活という観点から、より中継ぎ陣にかかる負担が増える可能性が出てきます。従来のレギュレーションに戻った時、中継ぎ陣の起用法は今季よりも難しくなりますし、1人の投げるイニングも増える可能性が出てきます。感染症対策は大切ですが、その一方で、いずれは元に戻ることも視野に入れておかなければ。となると、その対抗策として、すぐにでも着手できるのは先発陣の投球イニング強化。この考えは一理あると思います。

里崎氏が提唱する新QSには、先発投手のクオリティーアップ、中継ぎ陣負担減、そしてレギュレーションが戻ることへの準備、こうした点に有効な一手になる可能性を秘める。

そして、最後に里崎氏はQSから新QSへの移行をわかりやすくするデータを読む方法を提案した。

里崎氏 こう考えています。QS率と新QS率の差が少ない投手こそ、本当にクオリティーの高い投手であると。QS率から新QS率を引いたポイントが、15ポイント以内ならかなり優秀と言えそうです。これなら、わかりやすいですよね。

今年の成績で言うなら、20回以上先発した投手で、その差が15ポイント以内を調べると、オリックス山本が11・6Pとなった。また、西武今井が12P、阪神伊藤将は9・1P、ヤクルト小川は4・5Pとなる。ただし、成功した回数の多さから見ても、オリックス山本の数字が抜きんでていることが分かる。

いずれは感染症対策との共存を確立したプロ野球観戦が戻ってくる。そうした時に、より高いレベルの先発投手が試合をつくっていく、そういう試合を1試合でも多く堪能したい。そのためにも、里崎氏の提唱する新QSは興味深く、多くの野球ファンにも考えてもらいたい概念だと言える。(おわり)