王貞治超えの56本塁打を放ち、令和初の3冠王となったヤクルト村上宗隆内野手(22)。その強みは逆方向への打撃にある。左中間席にたたき込んだ55号の打席写真から、日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(50)がフォームを分析。大きな飛躍を遂げた秘密をひもといた。

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比較的オーソドックスな構えの(1)だが、少しだけ右肩を内側に入れ、クローズに構えている。クローズに構えるバッターは上半身が力みがちになるが、両肩やグリップに力感はなく、軸足の左足にだけ力が入っている感じ。どっしり感があり、相手に威圧感を与えるいい構えだと思う。

右足を上げるタイミングの(2)で軸足に力をためている。その分上体が沈むため分かりにくいが、このタイミングで下を向いていた左肘が上がり、左肩の下にあったグリップが肩のラインまで上がっている。このように左肘を使えると背中側にグリップを入りにくくでき、バットを遠回りさせずにより内側から出せる。単純そうに見えるが、利き手ではない側の肘をこのように動かせる右投げ左打ちのバッターは意外と少ない。

(3)~(4)にかけてトップを作っていくが、踏み込んでいく右足と一緒に下半身は投手方向に勢いをつけられている。ここで、上半身は下半身と一緒に突っ込んでしまわず、グリップの位置とともに、捕手側に残ったまま。右投げ左打ちは利き手が前にあるため、どうしても前でさばく傾向が強い。そのため、上半身が突っ込みがちになりやすく、大きな「割り」が作れないが、村上はしっかりと「割り」が作れている。

そして外国人バッターのように、その場で回転する打ち方でもない。パワーのある外国人はボールを引きつけるだけ引きつけて下半身をそのまま回転させるが、村上は下半身を打球を飛ばす方向に勢いをつけてスライドしている。にもかかわらず上半身は突っ込まないから、大きな「割り」でパワーも外国人と遜色なく、フォークなどの落ちる変化球にも対応しやすい。懐の深さにもつながっており、ここまでを見ても村上の非凡さが凝縮されている。

(5)では、グリップが少し落ち気味になってから打ちにいっているが、この連続写真は外角直球をホームランにしたもの。外角球を引きつけて打とうという意識からだろう。それでも(6)では左肘が体の前に入っていき、バットのヘッドも内側に残っている。

(7)のインパクトは完璧すぎるほど完璧。ボールを引きつけ、逆方向へ打つバッティングとしては理想的な打ち方ができている。右投げ左打ちが外角球を逆方向にスタンドインさせるには、利き手と逆の左手で、ボールをしっかり押し込めないといけない。エンゼルス大谷もそうだが、この決して簡単ではない動きが出来ることが、村上の大きな強みだろう。

フォロースルーも非の打ちどころがない。(8)ではバットの先が地面と平行からやや下を向いているのが分かる。並のバッターであれば、(6)のバットの角度から(8)の形にはならない。バットのヘッドが立っていき「あおり打ち」の軌道で極端なアッパースイングになるか、手首を返してこねるような打ち方になってしまう。こねれば打球は上がりにくい。しかし、バットのヘッドが上がっていかないように、手首を抑え込むように使えている。だから打球を捉えてから、押し込むようにバットのヘッドが使える。これが飛距離の源になっている。

もう1つお手本にしてもらいたい箇所がある。(6)~(11)までのベルトの傾きを見てほしい。ほぼ地面と平行のまま打ちにいけている。これは肩のライン、スイングの軌道、両膝がすべてレベルで回れている証拠。下半身をレベルで回している打者は外角球だけでなく、内角高め直球を右翼席に運んだ56号のように、内角球もさばける。内角や高めは引っ張り気味で、外角や低めは逆方向気味。全ての球種に対して、センター方向を基本に広角にホームランにできる。

一体どこまでホームラン数を伸ばせるのだろう。年齢的にもまだまだ成長していくのは間違いない。想像しただけでもワクワクするようなバッターになった。(日刊スポーツ評論家)