巨人ドラフト1位高松商・浅野翔吾外野手(17)が、こよなく愛する味がある。地元高松市屋島西町の中華料理屋「えびす屋」。小学3年で野球を始めてから通い続け、10年目の付き合いだ。浅野が「マスター」と慕う店主の吉田誠さん(66)が「怪物伝説」と素顔を明かした。

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高松駅から東に、車を約15分走らせる。浅野の地元、屋島町の住宅街。赤い看板の「えびす屋」で「マスター」は中華鍋を振るう。

出会いは小学3年。野球を始めた屋島スポーツ少年団(現屋島シーホークス)の打ち上げは、決まってここだった。「同じ3年生と比べても断トツ大きかった。飛び抜けてましたね」。店内の柱には、小学5年時の身長が刻まれている。すでに、160センチはあっただろうか。成長の跡を見つめ、吉田さんは語り始めた。

「打つなら必ずボームラン。外野を抜けても、足が速いからランニングホームラン。だから、あの頃はみんな、翔吾とは勝負してくれなかったんです」

鮮明に覚えているのは、小学6年時。えびす屋が主催し香川県内約30チームを集めた大会「えびす杯」の決勝戦。店の準備もあり観戦を終えようとした吉田さんのところに、浅野少年が走ってきた。

「『マスター、マスター! 次、僕の打席です。僕、ホームラン打つけん待っといて』って言うんです。そしたら…」

本当に本塁打を打った。特大飛球で外野の間を破り、予告ランニングホームラン。「僕がいるけえ、無理して高めのボール球をね。でもね、その晩の祝勝会、あいつはみじんも打ったことを言わない、しょっちゅうホームラン打ってるからね(笑い)。あの頃から、すごいいうのは飛び越してましたね、超スーパースターですね」。

中学、高校でも節目のたびに通った。注文は決まって、からあげ定食。通常7個ほどのからあげは、浅野スペシャルの12個。ご飯はどんぶり2杯をたいらげ、さらにラーメンもサービスする。しまいには、チャーハンをおかずに白飯を平らげる。白飯にカレー粉パウダーをたっぷり振りかけるのが、浅野流だ。

「鶏肉を使ってるから、これ食ったら(鳥のように)打球がよく飛ぶぞ! って言うてね。甲子園を決めた時も『マスターのおかげで打球飛びました』って言うてました」

天性の愛されキャラでもある。「どこか昭和の感じがあるでしょ。僕らの話し相手になる。おばちゃんにものすごい人気あるんですよ」。こっそりと小遣いをあげたことも。

「『ご両親に黙っとくんやぞ』言うても、その夜にお父さんから電話かかってくるんです。『また、すいません』って。お前、それは黙って、もらっとけよ、と(笑い)。親にも隠し事しない子ですよ。恋愛の話までよくしてくれる(笑い)。正直者の素晴らしい子ですよ」。

巨人に入ってもコミュニケーションの心配は不要と太鼓判を押す。仲間にもファンにも愛される姿が想像できる。

ドラフトの1週間ほど前にも、からあげ定食を食べにきた。「記念に」と、思い出の柱で身長を計測。いつのまにか、体も心も大きくなっていた。

「東京に行っても鶏肉送ります。食べたら、打球がよく飛ぶんでね」

夢をかなえるたび、喜んでくれる人がいる。浅野がバットを振り続ける理由は、ここにもある。【取材・構成=中野椋】

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