日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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第5回大会になったWBCは、日本が世界一奪回で有終の美を飾った。

06年(平18)の第1回大会は、王貞治が率いて頂点に立った。当初はMLB、MLB選手会が主導する実態のつかめないプロモーションで手探りだった。

拙者も“アメリカの、アメリカによる、アメリカのための花相撲”と皮肉ったものだ。開催時期、ルール、運営方式など課題は横たわるが、大会は回を重ねるごとに成熟している。

だが米大コミッショナーのロブ・マンフレッドは「WBCはワールドシリーズとは別。選手を育てる国際化を狙ったイベント」と“世界一決戦”とは位置づけていない。

原辰徳が監督、イチロー、松坂らを擁した第2回大会以来、14年ぶりの世界一。決勝で野球の母国アメリカを下したのは、“真のWシリーズ”に近づけるためにも意味があった。

日本はWBSC(世界野球ソフトボール連盟)の世界ランキングで1位になっている。野球の推進、競技者人口拡大など、裾野を広げるため、日本球界が担う役割は大きい。

そのキーになるのは、日本プロ野球コミッショナーの存在だ。今後は勝つためのマネジメントをみせた栗山英樹のようなプロ野球出身者を候補に立てることも選択肢に入れるべきだ。

昨年のMLBは新労使協定が合意せず、開幕延期の影響を最小限にとどめた。過去には史上最長ストライキ、公式スポンサー、FA制、交流戦などの導入、3地区制プレーオフ開催、日本開幕など、コミッショナーが先頭に立って改革した歴史がある。

日本球界で最高責任者のコミッショナーは“法の番人”といった印象が強かった。初代から法曹界はじめ、大学、銀行出身者が続いた経緯がある。

それが「ビジネス界に通じた人材」を起用する方向に転じ、17年に就任したのが、当時78歳だった実業家、金融市場に精通する斎藤惇だった。

昨年12月、第15代コミッショナーとして、東レ出身、元経団連会長の榊原定征に引き継がれた。80歳。球界発展をリードするにふさわしいかは、今後のアクションにかかっている。

かつて王貞治、星野仙一ら大物OBの名前が取り沙汰されたが実現に至らなかった。WBC総括で栗山が勝因とともに、将来ビジョンを語ったのは心に残った。

栗山コミッショナー誕生は“お飾り”でない、球界をけん引するリーダーとしての期待感を抱かせる。WBCの優勝トロフィーをかついだ姿を見ながら、ふとそう思った。(敬称略)